小泉農水相と元テレ朝・玉川徹氏が「農家の大規模化」で意気投合も…コメ作りを知り抜く異色農家は「どんなに働いても生活苦な“小作人”が復活するだけ」
コメを作る人がいない現実
ところが、である。コメ生産の現場を知り抜いている農家は「小泉農水相の主張なんて、農家の誰も信じていません」と一蹴する。
木村和也氏は登山専門誌「山と溪谷」で知られる出版社、山と溪谷社のOBだ。生まれ育った新潟県南魚沼市にUターンすると実家のコメ農家を継ぎ、フリーペーパー「山歩みち」の編集長を務めている。異色の“兼業農家”と言っていいだろう。
そもそも日本の農村で需要を満たすだけのコメが作られていないのはなぜなのか、木村氏は「長年、政府はコメの生産量を抑制する政策を実施してきました」と言う。
「コメからソバへの転作に助成金を用意して奨励するなど、何十年も政府はコメの生産量を抑えてきました。生産量を抑えることで価格を安定させる意図があったのですが、気がつけば需要と供給のバランスはギリギリの状態となりました。つまり現在は、ほんの少しでも需要が増えれば在庫が消滅するという危険水域に到っています。おまけに政府の価格安定という掛け声とは裏腹に、コメの買い取り価格は、この数十年、一貫して安くなってきました。これでは離農が相次ぎ、誰もコメを作りたがらなくなるのは当然です。かろうじて生産を続けている今の農家も高齢化と人手不足、担い手不足に悩まされています。中長期的な視点に立てば立つほど、コメの生産量が増加に転じるとは思えないのです」
大規模化に潜む危険性
ソバに転作した農地を水田に戻し、大規模化を実現すればいい──素人は安易にこんなことを考えてしまうが、全くの暴論だという。
木村氏は「転作田を水田に戻し、収量を安定化させるためには最低でも3年はかかる」と指摘する。加えて水路や畔の整備など相当な予算も必要だ。何より「コメを作りたい」と手を挙げる人間がいない。たとえ水田の大規模化が実現したとしても、コメを作る農家が誰もいないのであれば意味はないだろう。
「農水省は以前から大規模化を奨励してきました。具体的には100ヘクタールのコメ農家を対象に助成金を準備しているのですが、これを全国一律に行うことは難しいと考えています。なぜなら日本の国土は7割が山地。よって傾斜地に田んぼを作らざるを得ないので、田んぼの区画は小さくなります。結果として管理に手間がかかり、外国のように作業効率化が進まないのです。また現時点での農業の大規模化は、戦前の小作制度に近いイメージがあります。100ヘクタールの水田を夫婦2人で管理することは不可能です。農業法人を設立し、従業員を10人は雇用する必要があるでしょう。たとえ法人の代表は儲かったとしても、コメの買い取り価格が根本的に上がらない限り、従業員は薄給で働かされるだけです」(同・木村氏)
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