恋も行為も経験せず結婚したら…50歳間近での“初めて”に狂った夫 最終的に「死」までよぎった17歳年下との恋の果て
妻に切り出すと…
その後、遙花さんは会社をクビになったと彼に伝えてきた。「どうせやめるつもりだったからいいけど」とため息をつく彼女に、彼は「僕は離婚する。結婚しよう」と言った。彼女は「私、太一郎さんが好き」と抱きついてきた。
「彼女のために新しい部屋を借りました。離婚は揉めると思ったので、しばらく時間がかかるかもしれないけど、一緒にがんばろうと遙花に言いました。新たな力がわいてきた。生きる気力を初めて感じました」
遙花さんは17歳年下である。彼女と一緒になることで、彼は若い時代をやり直したかったのかもしれない。ある日、思い切って淑子さんに「話がある」と切り出した。
「淑子はほわんとした声で、『私は離婚はしないわよ~』って。『あなた、遙花と別れないと遙花の命が危ないかも。うちの母はどんな手も使うから』とも言うんです。まさかとは思ったけど、義母はそういうふうに言われても不思議がないくらい、何か秘めた怖さがある人なんですよ。実際、遙花は会社をクビになってる。『会社を辞めさせるくらいじゃ、母の怒りはおさまらない』と淑子は追い打ちをかけてきた」
それに合わせるように、「ハローワークに仕事を探しに行った帰り道、誰かにつけられた」と遙花さんから連絡があった。
「本当に怖くなりました。僕のせいで遙花がケガでもしたら……と思うといても立ってもいられない。遙花に全部話して、『ほとぼりが冷めるまで故郷に帰ったほうがいいかもしれない』と言いました。ふたりでどこかに逃げようかとも思ったけど、現実的じゃない。僕が好きな遙花に何かあったらどうしようと、そればかり考えていました」
遙花さんの“裏切り”
その後も遙花さんは、誰かに見られているような気配を感じたり、早朝、散歩していたら自転車に乗った誰かに後ろからぶつかられたりした。
「いつか絶対に迎えに行くからと、彼女を実家に帰しました。連絡はとっていたんですが、半年くらいたったころ、遙花が『太一郎さん、もう無理』と。地元で昔の同級生と再会してつきあうようになり、妊娠したから結婚すると言うんです。そんな……と僕は目の前が真っ暗になりました」
彼はそのまま自室で失神していたという。目が覚め、水を飲もうとキッチンに行くと、淑子さんもキッチンに出てきた。
「恋とか愛とか、つまらないことを言わないで、このまま暮らそう。淑子がそうささやいてきました。何もかも知っている口調でしたね」
淑子さんは彼女なりに、太一郎さんを必要としているのかもしれない。通常の夫婦関係ではないが、それでも太一郎さんがいない生活は考えられないのではないだろうか。
「僕には淑子の気持ちを考える余裕がなくて。遙花を幸せにできなかった後悔と同時に、遙花に裏切られたのもショックで。あんなに愛し合ったのに、あんなに心通わせたのに。僕らは何も築けなかったのかと思うと……」
それから半年あまり。太一郎さんはまだ立ち直れていない。淑子さんとの生活は、そのまま続いているが、「僕は家では生きる屍です」と低い声でつぶやいた。遙花さんの夢をよく見る。ふたりで草原を走り回っているのだが、気づくと小さな子どもが一緒に笑いながら走っている。
「僕は遙花との間に子どもがほしかった。遠慮しないで子どもをもうけてしまえばよかった。そうすれば遙花と別れずにすんだかもしれない」
後悔先に立たずだが、どうにもならないから後悔するのだ。彼のせつない気持ちは痛いほど伝わってきた。
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遙花さんと出会うまでは「まじめ」一辺倒に生きてきた太一郎さん。それだけに現在の置かれた状況の苦しさは増しているのだろう。彼の半生、そして淑子さんとの出会いについては【記事前編】で紹介している。
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