「四毒」を絶ったら「ダイエットに効果」「花粉症が治った」の声…素人が自分の体験を周囲に勧めることへの違和感

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「揚げパン」は四毒そのもの

 戦後、食べるものにも困窮した人々は、腹を膨らませることを考え、食べられるものは何でも食べたことだろう。1973年生まれの私にとっても、今、「四毒」を述べている同世代の気持ちが分からないのが、学校給食である。

 私は1980年から1984年まで神奈川県川崎市立の小学校に通ったが、給食で米は一切なかった。基本パンであり、時々ソフト麺が出た。1984年から1986年までは東京都立川市立の小学校に通ったが、米飯給食は週1回だった。この頃、「米を食べるとバカになる」という説が伝えられていた。社会の授業では「機械化貧乏」という言葉があり、日本の農家、特に米農家は設備投資過多により苦境に陥っており、だったら海外から小麦を輸入すればいい、といった教育もしていた。

 なぜそこまで米を敵視していたのかは分からないのだが、あの時の学校給食は明らかに「四毒」だった。「揚げパン」なんてその最たるものではないか。きなこをまぶしたバージョンとグラニュー糖をまぶしたバージョンがあったが、毎日提供される牛乳と合わせ、四毒を完全にコンプリートしている。しかし、生徒達はこの2つが出る日を心待ちにしていた。

あなたの感想ですよね

 こういった給食を食べていた現在の40代後半~50代中盤は果たして不健康者続出か? もっと言うと、「四毒断ち」を実践していない人が不調の原因を四毒のせいにするか? あくまでも運動不足や暴飲暴食、さらには体質の問題だと捉えているのでは。だが、四毒を問題視する人々は「この4つを避ければあなたは健康になる」というもはや信仰のような領域に入っているように感じてしまうのである。

 あなたはそれがいいと信じているのであればやればいい。ただ、一緒に食事の席を囲む時、こちらの食べるものに対してケチをつけないでほしい、と思う。そしてこの信仰がますます先鋭化するのが、「甘いもの」についてだ。

 人工甘味料はご法度である。というか、言語道断である。ただし、「甘いもの」は砂糖だけでなく、果物関連でも「果物を使ったスイーツはヤバイ。果物のジュースもダメ。ただし、生の果物はその中では一番マシ」といった説を唱える人もいて、正直「あなたの感想ですよね」と思うこともある。100%のオレンジジュースの成分は「オレンジ・香料」とあるが、この「香料」の使用有無だけでフレッシュフルーツとの違いがどこまであるのだろうか。

自分の健康法を周りに勧める危険

 ビーガンブーム等も含め、ラディカルな健康志向は昔から存在した。「サラダチキンだけでいい」「リンゴを食べるとやせる」「〇〇をやめたらアトピーが治った」などだ。だが、本来健康というものは、個々人によって異なるもので、素人が実体験(ないしは「そう信じ込んでいるもの」)を周りに勧めるのは危険な行為である。だからこそ各ウェブメディアは極力健康や病気関連の情報を記者・ライターの主観で出さないようにしており、専門家への取材を基に記事を作るか【医師監修】といった注意書きをするのだ。

 正直「四毒」が長い人類の歴史で提唱されたのは長くない話だ。いつから人は自身の食の嗜好をドヤ顔で語り、それに反する人間を愚民扱いするようになったのか。勝手に好きなものを食べ、他人にいちいち自身の嗜好を言わないでほしい。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。

デイリー新潮編集部

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