ラグビー日本代表を13年間、裏で支え続けた男の哲学「評価されるのはプロセスではなく結果だけ」
「働いて稼ぐだけ」
この働きの裏には家族の支えもあった。
「うちの嫁さんが素晴らしいのは、何で僕ら家族がご飯を食べられているのかを知っていること。僕は家のことを何も心配していなくて、嫁さんが子どもたちのことを含め全部、ちゃんとやってくれました。僕は働いて稼ぐだけです」
働いている間は、子どもの授業参観や運動会には一度も出席することができなかった。たまの休みの朝、子どもを学校へ見送ろうとすると、子どもから「パパ、また来てね」と言われてしまったこともあったという。
チームマネージャーとして、大村氏の役割は実にシンプル。チームが勝つために、事前の準備を徹底的に行うことだった。「遠征では風呂の温度管理から、メディア対応まで全て私たちの仕事でした」。合宿中は午前4時に起床し、朝食メニューを確認。深夜まで、ホテル玄関で選手の帰りを待ったこともある。
近著では、日々のマネジメント業務や、試合当日のルーティンから選手のメンタルケアまで詳細に記されている。それを読むと、恐ろしいほどの働きぶりと、細部への徹底的なこだわりが、日本代表チームを支えてきたことがよくわかる。
現役中は取材オファーをほとんど断ってきた。「僕らは裏方ですから。前に出て行ってしゃべったら、ただの"暴露"になるので」と笑う一方で、「あまりキャラが立つほうではないですし、見た目も怖いですから。あんまり目立ちたくはないです」とも話す。
長い沈黙を破って著書を出版した理由について、「W杯に3大会連続でベンチ入りしたスタッフは本当に少ない。その経験を事実として残しておくのは必要なんじゃないかなという話がきて、じゃあ、いいですよという感じでした」と語る。
毎日、日本代表のことだけを考え続け、働き続けた13年間。本来は、2019年のW杯日本大会を一つの区切りに、身を引こうとしていたという。ただ、コロナ禍の影響などで、2022年まで役割を続けることになった。
「もう老害でしょ。長期間、同じ立場で仕事をしていると、良くも悪くも自身に力がつきすぎてしまい、新しいものが生まれてこない。僕の席があかないと、次の子がくることができないんです。自分の反省として、ちょっと長くいすぎたなというのはありますね」
現在は、仲間たちとビジネスをしながら、ラグビー選手の育成に力を入れる。知り合いから頼まれた講演会などに出ることはあるが、「本当は人前に立ちたくない」という。「でも、(著書を読んでくれた人が)裏方でも世界と戦えると感じてくれたら、それだけで十分、うれしいですね」と話した。
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第2回【ラグビーW杯の真実 南ア撃破は「奇跡ではない」 自国開催ベスト8は「120%」確信】では、日本代表の快進撃の舞台裏を明かしている。




































