ほとんどのことはまずAIに聞く「古市憲寿」の未来予測 「人間は下働きを担当」「“AIとしか喋りたくない”という子どもが出てくる」

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 サンフランシスコで自動運転タクシー「Waymo」に乗った。アプリに出発地と目的地を入力すると、数分で無人の車が到着する。ドアを開けて、席に座り、シートベルトをすると、あとは勝手に進んでいく。

 気が付いたのは、運転手がいないことの快適さだ。タクシーもUberも、運転手さんとは基本的に初対面。相性はあるが、結局は他人に違いない。赤の他人と狭い空間にいることは、ストレスだったのだ。

 同じことは流行のAIにもいえる。昔は何か疑問があった時は、詳しそうな身近な人に聞くしかなかった。地域にも職場にも「長老」がいて、過去に通じていることが尊敬される大きな理由だった。だが今や世界最高レベルの回答がAIから返ってくる。AIは何を聞いても怒らないし、僕らを馬鹿にしてくることもない。賢い上にいい奴なのだ。「AIとしか喋りたくない」という子どもが出てくるのは時間の問題だろう。いや、すでにそんな大人がいてもおかしくない。僕自身、ほとんどのことはまずAIに聞いてみる習慣がついた。

「Waymo」で向かった先は現地のアップルストア。うっかりiPhoneを落としたせいで、画面の保護フィルムが割れてしまったのだ。ChatGPTに聞くと、すぐに保護フィルムが買える店一覧のみならず、ユニオン・スクエアのアップルストアでならスタッフが実際にフィルムを貼ってくれるということまで教示される。確かに親切なスタッフが、仰々しい機械を使いながら、丁寧にiPhoneのフィルムを貼り替えてくれた。

 この役割分担に現代社会の縮図を見た気がする。「調べる」などの知的な作業はAIに任せられるが、「フィルムを貼る」という単純作業は人間の担当なのだ。例えば急速にAIの文章力は上がっている。遠くない未来、小説も評論も雑誌記事も、人間の手によって書かれた文章は激減するだろう。だがAIが一般的な意味での取材をすることはできない。対象者にインタビューをしたり、現場に張り込んだりという作業は、当面は人間の仕事だろう。ロボティクスの進化がAIには追いついていないからだ。

 ということは、人間がAIの下働きをする時代が続くということだ。雑誌の編集部でいえば、デスクにあたる人はいらないが、情報を足で稼ぐような若手社員は必要。ただし横暴だったり気ままなこともある上司とは違って、AIは徹頭徹尾優しいはずだ。きちんと下働きする者を鼓舞し、称賛し、手柄も人間にくれる。だからわれわれはそれを下働きだとは思わず、むしろ自分たちがAIを下働きさせているのだと思い続けることができる。

 ここまで書いた文章をAIに添削してもらう。「文章の流れは体験談→気づき→社会の構造変化と展開しており読みやすい」が「人間がAIの下働きになるという論は面白いが、やや飛躍がある」とのこと。本当にその通り。ChatGPTの新モードo3は信じられないくらい優秀です。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目され、メディアでも活躍。他の著書に『誰の味方でもありません』『平成くん、さようなら』『絶対に挫折しない日本史』など。

週刊新潮 2025年5月22日号掲載

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