「生野菜には落とし穴も」「ゆでるよりもレンチンの方が…」 減少し続ける日本人の野菜摂取 認知症対策にもなる取り方とは

ドクター新潮 ライフ

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アミロイドβの形成を抑制

 高齢者の健康に関する話を続けると、サルコペニア(筋肉減少症)からフレイル(介護状態一歩手前の虚弱)に陥るのを避けることが極めて重要であり、その意味で近年、とりわけ高齢者には筋肉の元となるタンパク質の摂取量を増やすことが推奨されています。ただし、「タンパク質だけ」では十分ではありません。ここでも、野菜が重要な役割を果たすのです。

 なぜなら、せっかくタンパク質を摂取しても、その消化吸収にはビタミンB6、ビタミンB12、そしてホウレンソウに豊富に含まれる葉酸や山菜に多く含まれる亜鉛などが関係しているからです。つまり、サルコペニア対策を意識して一生懸命タンパク質を摂取し、筋トレに励んでも、野菜を食べなければ無駄になってしまいかねないのです。

 高齢者の関心事には認知症対策も挙げられると思います。国立がん研究センターが、50~79歳の約4万3000人の男女を追跡調査した結果、全野菜・果物摂取量が最も多いグループと、最も少ないグループを比較した場合、前者の認知症発症リスクは男性で13%、女性だと15%低いことが明らかになっています。さらに、ビタミンCの摂取量が最も多いグループと、最も少ないグループを比べると、前者の認知症発症リスクは男性で29%、女性だと24%低いことも分かっています。

 ビタミンCの抗酸化作用が、認知症の原因物質となるアミロイドβの形成を抑制することが報告されていて、国立がん研究センターも認知症発症リスクの低減の原因に、野菜や果物に含まれるビタミンCの抗酸化作用を挙げています。

調理すること自体が脳に好影響?

 私は、このビタミンCの効能に加え、「野菜を食べようと心がけること自体」が、認知症対策に寄与しているのではないかと考えています。

 まず、野菜をしっかりと食べられているということは、口腔環境が良好に保たれている証しといえますし、口腔環境が脳の状態に影響を与えることは最近広く知られるようになっています。他にも、例えば青汁のサプリで野菜不足を補っている人と比較して、野菜そのものを食べている人には、スーパーなどに食材を買いに行くため日常的に歩くといった身体活動面での好影響があったり、「料理療法」という言葉があるように、野菜を調理すること自体が脳に良い影響を与えたりもします。

 野菜の摂取を通じて、生活全般にプラスの波及効果が期待できるのですから、やはり「100グラムの差」を埋める努力は諦めるべきではないと思うのです。

林 芙美(はやしふみ)
女子栄養大学栄養学部教授。米国の大学、大学院で学んだ後に東京医科歯科大学大学院博士課程を修了。米国登録栄養士・医学博士。専門は栄養教育学、健康科学、公衆栄養学。健康で持続可能な食生活の実現に向けて研究・啓発活動を行っている。監修本に『間違いだらけの「野菜」の食べ方』がある。

週刊新潮 2025年5月15日号掲載

特集「日本人を悩ます“100グラムの差” 認知症対策になる野菜の摂り方『新常識』」より

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