生涯2度目のダウンを喫した「井上尚弥」はどこまで勝ち続けられるのか…「負けられない戦い」が続く過酷すぎる“防衛ロード”見直しは
世界を支える強力なセコンド
今回も井上をサポートしたのは、絶大な信頼関係を誇るセコンドだった。
「井上陣営は中盤でのKO勝利を狙っていたので、ダウンを奪われるのは想定外だったのではないでしょうか。しかし毎試合『絶対に負けられない戦い』に挑んでいる井上にとって心強いのは、トレーナーでセコンドの父・真吾さん(53)の存在です。今回の試合でも真吾さんは、『右のカバー(=ガード)深めに』『フック強いの振ってくるから、それだけ気をつけてな』『1発だけ気をつけろ。今のままでいいから。それだけ』とラウンドごとに的確な指示を送っていました。間違いなく真吾さんは名トレーナーですが、幼少期から二人三脚の親子と以心伝心もあってこそのチームワークです」(同前)
真吾氏は中学卒業と共に塗装業で働き始め、19歳で結婚し20歳で独立。その後、アマチュアのボクシング選手としてのキャリアを積み、長男・尚哉、次男・拓真(29)を世界王者に育て上げた。その功績が認められ、19年と23年にはWBC、24年にはWBAの「年間優秀トレーナー賞」を受賞している。
「ボクシング界の親子鷹といえば、長男・亀田興毅氏(38)、次男・大毅氏(36)、そして、まだ現役で井上への挑戦をアピールしている三男・和毅(33)をいずれも世界王者に育て上げた父・史郎氏(59)が有名です。しかし、試合中に効果的・戦略的な指示を出す真吾氏の指導者レベルは極めて高いと思います」(ボクシング業界関係者)
井上は現在、米の大手興行会社・トップランク社と契約中だ。すでに、9月にWBA世界暫定同級王者ムロジョン・アフマダリエフ(30)、12月に1階級上のWBA世界フェザー級王者ニック・ボール(28)に挑戦し、5階級制覇を狙う異例の構想が練られている。そして、来年5月には東京ドームで現WBC世界バンタム級王者の中谷潤人(27)と、スーパーバンタム級で日本人王者同士による夢の頂上決戦が計画されている。すでに3階級を制覇している中谷は階級アップを見据えているため、1階級を上げて井上と戦うとしているのだが……。
「あまりにハイペースでなおかつ、プレッシャーのかかる試合が続くことになります。もっとも、トップランク社としてはカルデナス戦で自己最高額となる、11.5億円(推定)のファイトマネーを稼ぎ、今や世界中のボクシングファンを魅了する井上はエースの1人。渡嘉敷さんも心配しているように、今後は井上の体調が危惧されます。来年、中谷との頂上決戦が実現して中谷が勝っても、彼は国内外で井上ほどの知名度も人気もありません。日本のボクシング界にとっても、井上に代わるスターが台頭してくるまでは、まだまだ井上に勝ち続けてほしいというのが多くの関係者の希望です。大谷にあこがれて野球を始める子供が増えるように、井上にあこがれてボクシングを始める子供ももっともっと増えてほしいものです」(前出・関係者)
アスリートと年齢
これまでの日本ボクシング界において、井上と階級が近い元世界王者が現役を引退した年齢を振り返ろう。
元世界2階級王者の畑山隆則氏(49)は26歳。元世界3階級王者の長谷川穂積氏(44)は35歳。元WBC世界スーパーバンタム級王者の西岡利晃氏(48)は36歳。元WBA世界スーパーフェザー級(58.967キロ以下)スーパー王者の内山高志氏(45)は37歳。元WBC世界バンタム級王者の山中慎介氏(42)は35歳。元世界3階級王者の亀田興毅氏(38)は28歳だった。
「井上が戦っている軽量の階級に一番必要なのは、スピードと動体視力です。この2つは当然ながら、年齢を重ねるにつれ衰えてきます。これまで圧倒的なパンチ力でKOを量産してきた井上は、日本人では大リーグ・ドジャースで大活躍中の大谷翔平(30)と並ぶ異次元のアスリートとなりました。彼のもっとも勢いのあった時期は、5階級を制覇したノニト・ドネア(42)をフルラウンドの判定で下した19年11月から、2RKOでドネアとの再戦を制した22年6月ごろまでではないでしょうか」(前出・スポーツ紙記者)
年齢との戦いはアスリートの常だ。井上は長年、朝に弟とランニングや基礎体力トレーニングを行い、夕方からジムワークをこなすのが日課になっている。試合前日の計量後はその日のうちに3回に分けて食事を摂り、次の日までに5キロを目安に体重をリカバーする。
「これまで、当たり前のようにやって来た試合に向けての準備がありましたが、体調を第一に、見直す余地があるかもしれません。万が一、6月に中谷が2団体王座統一戦に敗れてしまった場合、井上の“防衛ロード”は見直されることになるでしょうが、今後は階級を上げることも視野に入れているので、どの相手もそう簡単に勝てない相手ばかり。まさに進むのはいばらの道です。できれば無敗のまま現役生活を終えてほしいですが、誰かに新たなスターの座を奪われない限り、辞められないでしょうね」(同)
米の老舗ボクシング雑誌「ザ・リング」は、井上が「もっと上に行くことは考えられない。フェザー級が私の限界だ」と発言したと報じている。日本人初となる5階級制覇が最後で、ボクシング史上3人目となる6階級制覇への挑戦は目指さない意向であることを明かしたという。すでに、自身の“引き際”を見据えているのか――。
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