たったの計280円…不景気の中国で若者がすがる「公設食堂」の激安メニュー 逃げ切り世代との落差が浮き彫りに

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 中国経済の減速が囁かれるようになって久しい。都市部の若者の失業率は2023年6月に21.3%に上り、24年12月時点でも15.7%と、16~24歳の若者の6人に1人が職に就けない状況が続いている。GDP成長率も鈍化傾向にあり、「かつての爆買い中国」のイメージは影を潜めつつある。上海と日本を行き来するライターの萩原晶子さんは、現地でそれを象徴するような光景に出会った。

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 中国の景気の悪化が始まったと言われてから約2年が経った。一見、上海の街を見るかぎり、大きな変化はないように見える。デフレとも言われているが、小売店や飲食店の値段は数年前に比べて上がっている。日々行列ができているレストランも激安を売りにしているわけではないし、街行く人たちを見ていると、高級ブランド・ゴヤールのトートバッグが流行っていることもわかる。主要道路はグリーンナンバー(EV)の高級車で渋滞が起き、観光地は人でごった返している。

 それでも、上海の友人知人たちは「不景気だ」という。街の表面からは明らかな不景気感は伝わってこないが、クライアントの支払いが滞っているという話、これまでの業務を切り上げて新たな分野を開拓したいという話、勤めている会社が市中心部から郊外へオフィスの引っ越しをした……といった話はよく耳にするようになった。そんな空気の中、それぞれに不景気への対策を考えているらしい。

 景気の後退はじわり、じわりと上海の人々の暮らしを変えつつある。40代会社員のNさんは、日用品の買い物をECアプリ「淘宝」から、安いグループ購入アプリ「拼多多」に切り替え、さらに日常で使う消耗品メーカーのランクを下げた。それだけで出費は半額くらいに抑えられるそうだ。30代会社員Yさんは、「コスメはひとつを使い切ってから新しいものを買うようにした」という。それまでは新商品が出たとき、口コミを見てよさそうだと思ったら、なにも考えずに即買を繰り返していた。使い切れないことが多かったそうだ。

 ネットなどでは就職難の記事を見ることも多い。上海市内の外資系メーカー役員で人事に関わる40代のCさんによると、昨年は募集人数1名のところ4,000人もの新卒生の応募があった。書類審査だけで数日かかった。寝る間もなかったという。

「しかも、北京大学や清華大学の新卒生を落とさなければならなかった。応募者の中にはアメリカやイギリスの有名大学を卒業して帰国した子も複数いる。みんなとにかく優秀で、面接でもどこかのCEO並みに堂々とプレゼンしてくるんです」

 ということは、国内には就職できなかった優秀な学生がごまんといるのだろう。

増加する「社区食堂」

 最近、上海市内に社区食堂が増えている。高齢化社会に向けて政府の肝いりで始まったもので、高齢者や障がいのある人、支援が必要な人が割引価格で食事できる公設の食堂だが、一般の人はもちろん外国人旅行者も気軽に利用できる。筆者の住む地域では、徒歩15分圏内に一軒の割合で設置が進んでいる。近所の人に「自炊が面倒なときは便利だよ」と勧められて以来ときどき利用している。食事時はいつも満席になっている。

 とにかく安い。公的施設を活用しているため家賃がかからないことなどが値段に反映されている。一般の人や外国人は割引価格が適用されないが、それでも冬瓜の炒めものは3元(約60円)、青椒肉絲は8元(約160円)。昼食なら15元(約300円)ですむ。民営の食堂の半額といった感覚だ。常時約30種類のおかずが揃っているので飽きることもない。メニューは基本高齢者向けなので、栄養バランスがよく塩分や油が控えられている。体調が悪いと感じたときにも助かる存在だ。

 通ってみると、若い利用者が多いことに気がつく。就職難に直面した学生たちの中には、親の支援を受けつつ勉強を続ける人もいる。資格の取得を目指す人、公務員試験に挑戦する人、起業を考える人……。若者たちはアルバイトをしつつ、実家にも帰らず、やりたいことを探っている人が最も多いのではないかと思う。そんな彼らにとって、社区食堂はとても頼れる存在なのだろう。若者の利用が多いからか、高齢者優先の時間帯が決められている社区食堂もあった。

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