派閥争いの陰謀で「不倫犯」にされた 妻も味方でなくなって…44歳夫「社内結婚」の大失敗

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亜紀さんの反応は…

「わけがわからないままに帰ったら、亜紀がいきなりスマホを突きつけてきたんです。どういうことなの、あなたが茉耶さんを襲ったのねって。全部話しましたが、亜紀は信じてくれなかった。あなたは以前から茉耶さんのことを気にしていたでしょって。正直言うと、茉耶さんのことは女性として意識していた。意識はしていたけど、男女の関係になるつもりなんてなかったし、そもそも不倫なんてしない。でもどう訴えても亜紀は疑ったまま。亜紀との信頼関係だけは盤石だと思っていたのにと僕は絶望的になりました」

 役員Aはそれをネタに、延彦さんが寝返ることを要求してきた。だがもちろん、彼はきっぱりと断った。そして彼は子会社に出向させられてしまう。

「僕の上司もいつの間にか別会社に行かされていました。水面下の争いに決着がついたんでしょう。子会社に出向といっても、そこに仕事があるわけじゃなかった。そんな理不尽には耐えられなかった。鬱々としていたら、仕事でつながりのあった他社の方からうちに来ないかと誘っていただいて……。収入は減りますが、来いと言ってくれるだけありがたい。会社をやめて転職しました」

妻の信頼は、もっと前から失われていた?

 亜紀さんには転職が正式に決まってから話をした。社内がおかしいことに、亜紀さんもようやく気づいたようだったが、自分も退職するとは言わなかった。亜紀さんはいつの間にか、延彦さんを敵対視していた派閥寄りになっていた。その人たちが今後の主流派になるのだから、そのほうが居心地がいいのだろう。だが、延彦さんには亜紀さんまでもが裏切ったとしか思えなかった。

「会社の醜悪な事態が家族関係にまで影響していました。亜紀が逐一、母親に報告しているので、母まで僕を妙な目で見る。母に話してもしかたがないから、あるとき父に半分ぼやきながら話してみたら、『オレにも似たようなことがあったよ』と若いころの経験を語ってくれました。父も僕も、正しく生きたかっただけなのに」

 父に話したのがよかったかどうかと彼は今も考えている。負け犬同士が慰めあっているような虚しさだけが残った。

「1年前、家を出たんです。電車で15分くらいのところにアパートを借りました。転職先が少し住宅費を出してくれているので。子どもたちには会いたいので週末は自宅に戻りますが、亜紀との関係には冷たい空気がありますね。その後、前の会社の同僚から連絡があって、茉耶さんは退職したらしい。彼女も既婚だったんですが、離婚して役員Aと一緒にいるという噂もあります。きっといつか、ふたりとも自滅するはずだと僕は信じています。そんな話があるのに亜紀は、まだ僕を疑っているんですよ」

 もしかしたら亜紀さんの疑惑は、派閥争い以前からなのかもしれない。夫が自分を女として見ていないことが、年齢を経るにしたがって寂しさにつながっていったのではないだろうか。そして夫が茉耶さんを女性として見ているとわかっていたら、たとえ夫がハニートラップにひっかかったとしても、もともと浮気心があったからだと思ってしまうのではないか。

「子どもたちが成人するまでは離婚するつもりはありません。経済的に亜紀が退職するのもむずかしいし、亜紀は案外、あの会社の中枢にいることになるのかもしれないという話もあって……。もう転職したのだから、いろいろなことは忘れようと元上司にも言われたんです。でも彼自身も悔しくてたまらないはず。とはいえ、今さらほじくり返しても誰も幸せにはならない」

 いきなり濁流に飲み込まれ、翻弄されたあげく放り出されたような気がしますと延彦さんは言った。今の会社でなんとか恩返しをしたいと思ってはいるが、いろいろ考えすぎてなかなかなじめずにいるのも口惜しいようだ。

「今、本当に僕の心に寄り添ってくれる人がいたら、身も心も委ねてしまいそうです。今が僕の気持ちのいちばんの危機なのかもしれない」

 慰めようがなかった。かける言葉すら見つからないまま手を差し出してしまった。彼はしっかり握り返してくれた。

 ***

 延彦さんとしては、ただ真面目に働き、家庭を築いてきたという思いがあるかもしれない。だが、彼が“正しい”と信じていた道は、周囲にとっても同じ正しさだったのかどうか……。【記事前編】では、穏やかだった人生の前半期、そして亜紀さんとの馴れ初めについて紹介している。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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