東出昌大は「三島を読んでいなければ今の自分はなかった」 三島由紀夫生誕100年…著名人たちが語り尽くす魅力とオススメ作品
「日本人の背骨を通す意味で必要」
――次に、「三島作品を読んでいなければ、今の自分が形成されていなかった」と語るのは、俳優の東出昌大氏だ。
***
大学生の頃、電車で通学するときに本を読むのが日課になっていました。中でも新渡戸稲造の『武士道』や司馬遼太郎、山本周五郎、藤沢周平などの武士ものをたくさん読んでいて、三島がサムライのことを書いていると知ったので手にしたのが『葉隠入門』『若きサムライのための精神講話』です。
私は思想信条的に右でも左でもないのですが、現代の、人を誹謗中傷したり揚げ足を取ったりという嫌な風潮にあって、サムライとは、武士道とは何かと考えることは、もう一度日本人の背骨を通す意味で必要かと思います。
そもそもの『葉隠』は、古典過ぎて非常に難しいと思う。三島は「入門」とあるだけに分かりやすく、素晴らしい美文を尽くして説明しています。この2冊を読まなければ、今の自分が形成されていなかったと思うくらい、強い影響を受けました。本を読むことは、ワインのボトルの底の澱(おり)のようなもので、少しずつ蓄積されて、自分の深層心理に刻まれていると思っています。
「『滅私』がいつかできるように」
サムライの世界では、「武士道とは死ぬことと見つけたり」といいますが、腹を切るといっても、犬死には許されません。何かの責任を取って死ぬことは美徳ではなく、「滅私」ということに意味がある。例えば、駅のホームから線路に知らない子が落ちて、とっさに拾い上げて自分がひかれて死ぬということ。これは一つの武士の生き方であると思う。私もそういう「滅私」ということがいつかできるような人間でいたいと思います。
今年の夏、山中湖の三島由紀夫文学館に招かれ、来館者の方とトークセッションします。この2冊を課題図書として挙げていて、これからの日本について語り合う予定です。
後編【「自決を暗に予告して大笑い」「豚骨ラーメンのように濃厚な作品」 三島由紀夫生誕100年 著名人たちが語り尽くした「スター性」とオススメ作品】では、作家としてだけでなく、スターでもあった三島について、さまざまな側面から分析する。
[5/5ページ]