「40歳以上の5%が緑内障で、9割は無自覚」 リスクが高い人の五つの特徴とは
加齢に伴い目が見えにくくなっても大丈夫、手術を受ければ視界はすっきりするから――。これはあくまで「白内障」の話であって、「緑内障」は全く違う。元の状態には戻せず、放置すれば失明の恐れもあるのだ。専門家による、白内障と混同しやすい緑内障の全ガイド。【岩瀬愛子/眼科専門医】
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【写真を見る】「9割は無自覚」 どうすれば緑内障対策ができるのか
2024年、世界五大医学誌の一つ「ランセット」の専門家委員会が「認知症リスク因子」に関する報告書を発表しました。難聴、肥満、喫煙、高血圧など全14因子のうち二つは、前回(20年)の発表にはなく新たに加わったもので、その一つが「Visual loss」、つまり「視機能(視覚機能)の障害」です。
視機能は認知症、ひいては健康寿命と切っても切り離せません。視機能に障害が生じると料理が困難になり、栄養バランスが悪化。転倒リスクが高まり、認知機能や生活意欲が低下し、行動範囲が限定されます。また孤立を招き、身体的・社会的フレイル(虚弱)を起こしやすくなります。
では、視機能を守るために何が重要となるのでしょうか? 私が絶対に外せないと考えていることが「緑内障対策」です。緑内障は40歳以上の20人に1人、70歳以上では10人に1人以上という患者数の多い病気ですが、病気に対する正しい知識が浸透していません。そのためにかなり進行した段階でようやく発見される方も多く、緑内障は視覚障害原因の圧倒的トップで、日本人の失明原因第1位にも位置します。
「進行してから受診する方が後を絶たない」
〈こう警鐘を鳴らすのは、日本緑内障学会名誉会員で、たじみ岩瀬眼科(岐阜県多治見市)院長の岩瀬愛子医師。世界の緑内障研究者に大きなインパクトを与えた大規模疫学調査、通称「多治見スタディ」の現地責任者を務めた眼科医だ。
多治見スタディが行われたのは00年から01年。日本緑内障学会が多治見市で40歳以上の住民5万4165名から無作為に4000名を抽出し、緑内障について調査した。これに並行し、岩瀬医師は40歳以上の住民への無料検診を実施。その結果は「40歳以上のおよそ20人に1人が緑内障と診断。9割が無自覚」という、これまで明らかになっていなかった緑内障の実態を示すものだった。
多治見スタディで新たに導き出された知見は多く、現在に至るまで緑内障に関するさまざまな論文で活用されている。いわば岩瀬医師は、緑内障の実態に関する「常識」の生みの親の一人とでも言うべき存在だ。〉
緑内障という病名は、ほとんどの方が聞いたことがあると思います。しかし多治見スタディ以降、私をはじめ緑内障専門の眼科医らが20年以上にわたり啓発活動を行っているものの、進行してからようやく受診する方が後を絶ちません。まさか自分がなるとは夢にも思っていないのです。
多治見スタディでは、発見された全緑内障患者の89.5%が調査時まで未発見で、自身が緑内障であることをご存知ありませんでした。
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