ピーク時の交換高は「4797兆円」…手形・小切手の廃止に専門家は「経営者の矜持が失われないか」「手形詐欺は犯人にも高度な知識が必要だった」
古い価値観の継承も
そして手形や小切手の実質的廃止を象徴として、経済界に悪い意味の“軽さ”が蔓延しないか、不安になる時があるそうだ。
例えば「創業」という言葉を考えてみよう。古くさい印象もあるだろうが、重みは充分だ。優れたサービスを提供して消費者から評価され、長年にわたって経営を続けることで従業員の生活を守る、といった企業倫理を反映させたニュアンスを持つ。
では「起業」はどうだろうか。もちろん高い志を持つ起業家も多い。その一方で、短期的な利益だけを追求し、急いで株式を新興市場に上場。他社に買収してもらうことがゴールという例も散見されるのは事実だ。会社を興す動機としては、あまりに軽い。
「昔は怪しげなM資金話に手形や小切手が登場することもありました。変な話ですが、手形や小切手を悪用した詐欺を企むのは、犯人側も大変でした。専門的な知識が要求されるからです。それが今では詐欺事件の大半を特殊詐欺が占めるようになりました。これは電子決済が発達したことも大きな影響を与えています。闇バイトの逮捕者が、あまりに軽い気持ちで参加していることにも驚かされます。企業がデジタル化で利便性を追求するのはやむを得ないでしょう。しかしアナログの時代に存在した“経営者の矜持”や“企業の社会的責任”といった重い価値観が、デジタル化に伴う“軽さ”で失われてしまわないか、私も注意しながら取材を続けていきたいと考えています」(同・村田氏)
第1回【2026年度末で「手形」と「小切手」が廃止の衝撃…680億円の巨額“絵画取引”のウラで手形と小切手が飛び交った「イトマン事件」を振り返る】では、戦後最大の経済事件と呼ばれる「イトマン事件」で手形と小切手が注目され、大阪地検特捜部が動いた理由について詳細に報じている──。
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