「いつか離婚するから…」不倫前提で結婚生活スタート、それぞれに僕の子 真実を知った妻が語ったこと

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奇妙な関係の行方は

 本来だったらバレたところですべてを白状し、希里子さんとの子を認知するか、離婚して希里子さんと再婚するかを選択すべきだった。ところが秀太さんはそうはしなかった。

「麻衣佳が離婚だと騒げば、もちろん離婚するしかなかった。でも麻衣佳はなぜか淡々と受け止めたんです。『認知するならすれば? 子どもに罪はないんだから』って。結婚したときの初々しい彼女ではなく、人間として肝の据わった女性になっていた。一方の希里子もこうなったら離婚して結婚してとも言わなかった。『奥さんが気の毒になった』とつぶやいたのが印象的でした」

 その結果、結婚生活は続き、希里子さんとは変わらず恋人関係が続いている。彼が望んだ通りになったのだが、内心、「ふたりの女性たちが賢明だから、僕がこの状態でいられるんだ」とわかっている。自分の力などなにひとつないのだ。

「希里子と麻衣佳はいまだに面識がありません。お互いに意識しているのかもしれないけど接触しないでいる。だから表だってもめごとは起こっていません。麻衣佳に至っては、両親にもまったく話していない。すごいなと思います」

麻衣佳さんに話を聞く

 秀太さんの話す内容は本当なのだろうが、それは彼にとっての「真実」に過ぎないのではないか。妻がどう考えているのかはまた別の問題だろう。そこで秀太さんに頼んで、妻の麻衣佳さんに会わせてもらうことにした。簡単にはいかなかったが、最終的には麻衣佳さんが同意してくれた。

 麻衣佳さんはふんわりした雰囲気の女性だが、話し始めるとその表情の豊かさ、話の展開のうまさに、失礼ながら秀太さんよりずっと頭の回転の速い人だとわかった。

「あの人はぼんやりしたところがあるけど、それがいいところなのかもしれません。私は離婚するつもりはありません。息子は父親を慕っているし、うちの両親の手前、夫が私を裏切っていたとは言えないんです」

 さらに麻衣佳さんは衝撃的なことを言った。

「あちらの女性とは、私たちが結婚する前からの関係でしょう、おそらく。実は彼女に連絡をとってみようと思ったこともあるんです。でもあちらが何も言ってこないのに私から動くのははばかられた。お子さんに関しては、お子さん自身が認知を求めてくれればいいなと思っています。夫は私にとっては家族ですが、男として魅力的だとは思えなくて……。でも彼女にとっては“男”なんですよね。だったら使い分けもいいんじゃないかと。夫のしたことが人としてどうかと思われるかもしれないけど、人生の流れの中でそういうこともありうるんじゃないかと私は思っています。変でしょうか」

 麻衣佳さんは何もかもわかっていて、現状維持を望んでいるのだ。それは夫への愛情なのか、はたまたあきらめなのか。

「私、生まれながらのクリスチャンなんですよ。親がクリスチャンなもので。信仰心が厚いわけではないんですが、今回の件では信仰が役に立ちました。自分と関わった人たちを誰も否定したくない。愛とも諦めとも違う、なんというのか……慈悲ですかね」

 そう言って麻衣佳さんは妙に人懐こい笑みを浮かべた。秀太さんから聞いている麻衣佳さんの印象とは少し違う。この先のことを聞いてみると、彼女は「それは……神のみぞ知るというところでしょうか」と言って、また懐の深い笑顔を見せた。

 ***

 同時に不倫を咎める権利があるのは当事者だけ。第三者の目には、秀太さんと希里子さんの行いはもちろん、妻の麻衣佳さんの胸の内も、いささか理解しがたいものがあるかもしれない。だが本人が“納得”している以上は……である。秀太さんの恋愛観を変えたかもしれない幼少時の出来事は【記事前編】で紹介している。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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