創業は「関ヶ原の戦い」の4年前! 「東京産」を貫く酒舗「豊島屋本店」は“居酒屋のルーツ”でもあった
日本酒の魅力を伝えるために
「日本に〈居酒屋〉を定着させた、そのきっかけとなった店ですから、いつか機会があれば復活させたいと思いつづけてきました。たまたま、創業地近くの神田錦町で、複合オフィス・ビル〈KANDA SQUARE〉を運営する住友商事さんのご縁をいただき、1階奥の小さなスペースで、酒屋兼立ち呑み屋の『豊島屋酒店』をオープンすることができました。約100年ぶりの、創業の商いの再開です」
ここは、驚くべき店である。立ち呑みだからといって、甘く見るなかれ。たった8坪という小さなスペースにもかかわらず、たいへんなレベルの酒や有能な店長による料理が供されるのだ。
まず、江戸時代に大好評だった〈味噌田楽〉が、白味噌・赤味噌・季節限定味噌の3種類で、よみがえっている。そのほか、本マグロの刺身や本マグロ丼など、失礼ながら「立ち呑み屋で、なぜここまで?」といいたくなる料理である。なるほど、江戸っ子を喜ばせたつまみとは、これだったのだ。
そのほか、バターに〈金婚〉の酒粕と国産の柑橘ピールなどのドライフルーツを練り込んだ〈豊島屋バター〉は、この店のために作られた、オリジナル。日本酒に合う、究極の甘口つまみである。チーズのおつまみも多種あるが、すべて、日本酒に合うよう、国産が使用されている。
デザートも〈酒粕ようかん〉や〈お神酒ケーキ〉という徹底ぶり。さらに、ランチタイムには、本マグロとアボカド丼や、カレーなどの販売も、ある。
「現在、当社では50ほどの日本酒ブランドを出しております。居酒屋では、そのうち、主力商品である〈金婚〉〈十右衛門〉〈屋守〉、神田限定〈利他〉などの、純米酒や吟醸酒などを計20数種、そろえております。ほかに〈金婚 純米吟醸/江戸酒王子〉なども、ぜひご賞味いただきたいです。これは、東京産米〈キヌヒカリ〉と、たいへん珍しい〈江戸酵母〉でつくった、オール東京原料の、酸味と甘みが特徴のお酒です。パリで開催された“Kura Master 2020”の純米酒部門で、最高賞(プラチナ賞)をいただきました。これら日本酒はすべて30ml、60ml、100ml、150mlの4段階の分量でお出しできますので、お好みに合わせてお呑みいただけます。もちろん、試し呑みセットや晩酌セットもございますし、ビールや焼酎もご用意しております」
それどころか、店内の隅には、なんと400円で呑める「日本酒自動“給酒”機」がある。
「気が短かった江戸っ子のように、とりあえず一口呑みたい、という方には、ピッタリだと思います」
ここまで、“東京の酒呑み”の気持ちに寄り添ってくれる居酒屋が、あっただろうか。スタッフも酒や料理を熟知しており、立ち呑みとは思えない、ていねいな対応で迎えてくれる。遠方から直送される肴をつまみに、地方の隠れた銘酒を味わうのもいいが、酒もつまみも、ほとんどを江戸東京に特化した豊島屋酒店は、いまでは、かえって貴重な存在といえよう。最近は、居酒屋文化を体験したいと、海外からの旅行者も多く訪れている。
「いま、若い層を中心に、日本酒の魅力をご存じない方が、とても増えています。しかも、日本酒といえば、地方の蔵元が有名で、東京で、これだけのお酒がつくられていることも、あまり知られていません。ぜひ気軽に、東京の酒文化に、触れていただきたいと思います」
昭和100年を含む「400年」以上を、この江戸東京で生き抜いてきた「豊島屋本店」。毎年春の〈TOSHIMAYA FESTA〉(本年は4月27日に開催された)で知られる東村山の「豊島屋酒造」、そして、江戸時代の居酒屋を復活させた「豊島屋酒店」とともに、次の100年へ向かって「不易流行」を守り抜いていくことだろう。