「絶対死なせてくれよ、頼むな!」 “自殺実況テープ”を聞いたジャーナリストが「いまだに説明がつかない」と語る“ゴーッという激しいノイズ”の正体

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「待っててくれ!」

 見栄っ張りな男の、独りよがりな自己陶酔の旅の果て――。長野のホテルで最後の録音は始まる。ここから音声は「明らかにマイクを胸元につけたような明瞭なものに変わった」と永瀬氏は言う。

「呻き声とかも全部聞こえるわけですよ。 もうとにかく最後はすごいんですよ。“待っててくれ!”“絶対死なせてくれよ、頼むな!”という絶叫とも悲鳴ともつかない声が響き渡ります。最後の最後まで亡くなった二人に頼るんです。驚いたのは、“死んでなら、いくらでも時間があるからね。何千時間でも何万時間でも説明するから”と口にしていたことです。なぜ殺害したのかということを、彼はあの世に行って説明する気だったようですが……。そこから先は、ただただ死に向かっていく恐怖が詰まっています」

 最期を記録した音声には、背後でゴーッという原因不明の激しいノイズも聞こえるという。〈聞きようによっては、嵐の中、断崖絶壁に立って録音しているような音〉が一体なんなのか。永瀬氏にもその理由は分からないという。

「A氏が自殺した日、雨が降っていたのは間違いないんです。ただ、風は吹いていなかった。もしかしたらホテルの空調の音かなと思いまして。現場となったホテルに向かい、同じ部屋を取材させてもらおうとしたところ門前払いされてしまいました。なので、これは本当に分からないままです。僕は超常現象を全く信用していない人間なんですが、あの場面の背景の“音”が何だったのかは分かりません。いまだに説明がつかないんです」

 この「自殺実況テープ」の記事は反響が大きく、今も“音声を聞かせてほしい”という問い合わせが、永瀬氏のもとに寄せられることがあるが「聞かない方がいいと思うので、全て断っている」そうだ。つまり、インターネット上に音声データは存在しない。にもかかわらず、匿名掲示板やYouTube上には“テープを聞いた”あるいは“ネットで聞いた”という情報が散見されるのだが……。

「テープは僕が保管しているのに、その音声を聞いたという人がたくさんいる。都市伝説とはこうして生まれるんだなと思いましたね」

 これからも「テープを聞かせてほしい」という問い合わせには応じられないという。

 第1回【「自殺実況テープ」は都市伝説ではなかった…“絶命までの音声”を聞いて記事化したジャーナリストの告白「このテープは仕事でなければ絶対に聞きません」】では、このテープと対峙した永瀬氏が当時を振り返っている。

高橋ユキ(たかはし・ゆき)
ノンフィクションライター。福岡県出身。2006年『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』でデビュー。裁判傍聴を中心に事件記事を執筆。著書に『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』『木嶋佳苗劇場』(共著)、『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』、『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』など。

デイリー新潮編集部

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