井上昌己、「YELL!-16番目の夏-」で球児たちの心を掴むも…ミリオン無しに「悔しい」
ファンの声あれば
「YELL!」については、個人事務所で活動している井上ならではのこんなエピソードも。ある高校野球部のOBから「我々の代のキャプテンが体を悪くして手術を受けなければならなくなったが、『YELL!』を毎日のように流して元気を取り戻した。そのキャプテンが結婚するので、結婚式に歌いに来てほしい」と依頼され、駆け付けたのだ。
「インディーズだとそういう活動ができるんですよね。他にも『今度、結婚する彼が野球部で、昌己さんをサプライズで呼びたいんですけど、いくらかかりますか』って問い合わせもあって、社長に相談したら『手弁当で行ってやれ』って(笑)」
元・高校球児たちが、いかにこの曲を心のよりどころにしていたかがわかる。
ちなみに井上の母校の愛媛県立八幡浜高校からは、慶応大を経て1984年に巨人にドラフト1位で入団した上田和明や、日鉱佐賀関を経て1977年に中日に入団し新人王・最高勝率のタイトルを獲得した藤沢公也、八幡浜工業高校出身だが同じ八代中学からは1級下で、中学時代は「山部君!」と呼んでいたというヤクルトの1993年ドラフト1位・山部太がいるものの、本人は野球そのものには疎い。それでも高校野球の選手名鑑を買ってきては、推しメンを決めて応援しているという。山部は近年の井上のライブにも足を運んでくれているという。
自身を代表する曲を
ガールポップシーンに爪痕を残したとはいえ、ミリオンヒットを記録するような曲があったわけではない。それが自身の悩みでもあるという。
「事務所の社長に言われたのですが、私は色んな曲が作れる“何でもあり過ぎる作曲家”で、良くないと。私としては、声に出して歌って気持ちいいから、アルバムの中にもいろんな曲を入れたくなっちゃうんですよ」
確かに、その説は一理ありそうだ。この曲はやっぱりこのアーティスト、このアーティストならこの曲、といえる作品があるのとないのとでは大きく違う。演歌や歌謡曲すらも簡単に作れてしまうのは強みだが、一方、自分らしい色を強く打ち出せていないという意味では、ウィークポイントにもなり得る。
「モチベーションはまだ高くて、作りたい曲もあるし、作っているうちに、こんな曲も書いてみたいという、創作の楽しさはずっと感じています。あとは全国で待ってくれている人が、今もずっと応援してくれているというのが一番ですね。ただ、誰かに必要とされたことがあんまりなかったようにも感じていて。私には、お化けみたいな大・大ヒット曲がないんです。そのことがずっと悔しいんです」
と、正直な思いを吐露する。だからこそ、これまで自身の曲が「マックスで聴かれていた」90年代頃のファンにもう一度振り向いてもらう曲を作りたいのだといい、それがモチベーションにつながっているという。それを保ったまま、全国のファンに会いに行くのが、パワーの源だ。
「もちろんCDもいいんですが、生の良さは何物にも代えられない。どんな小さなイベントでもカラオケではなく、生の楽器でやるという形で続けてきているので、その一体感の素晴らしさや生でしか感じられない一瞬一瞬を大切にしています」
今年も全国各地を巡り、曲を作っていく。
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第1回【日本の「ガールポップ」史に輝くシンガーソングライター 井上昌己が今も「素敵な理由」】では、幼少時から才能を発揮した曲作り、苦手だった人前で歌うきっかけとなった出来事などについて語っている。
【INFO】
5月25日(日)、SHIBUYA PLEASURE PLEASURE(東京・渋谷)にてライブ開催。午後4時半開演(開場は同3時半)。








