“妹”と暮らし“姉”に惹かれ…「血の繋がらない姉妹」の間で揺れた41歳男性の10年間

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実母は再会後に亡くなり、真相は闇の中…

 あるいは恋に落ちたときは情熱が最高潮だったが、それぞれ離婚が成立したときには若干、疲れていたのかもしれない。再婚生活がうまくいくためには、何か重石がほしいと思ったのではないか。しかも養父は、乳飲み子だった紀美子さんが3歳になるまで一緒に生活していたのだ。離したくないという愛情が生まれていても不思議はない。

「まあ、実母の言うこともどこまで本当だったのかはわからないと紀美ちゃんは言っていました。結局、20歳で再会したものの、実母は長年の深酒がたたってそれから間もなく病気で亡くなったらしいんです。実の娘に自分があなたを捨てたとも言いづらいでしょうし。人は記憶を自分の都合のいいように塗り替えるから、なにが真実かはその人によって違うと紀美ちゃんは言っていました。『私が売り買いされたことが本当だったらショックだけど』とも言ったけどそれが真実かどうかは探らないと決めたそうです。育ててくれた養父母には感謝しているけど、どこかで距離を置こうとしている自分もいた。素直に甘えたり反抗したりしていた愛実が羨ましかったって」

 愛実さんの語る親子関係と、紀美子さんの語るそれとの間には大きな違いがあることに晶一さんは驚いた。それぞれが相手を羨ましいと思いながら過ごしてきたようだ。ふたりがもっと理解しあうことはできないのかと晶一さんは言ってみた。

「私は愛実が好きだし、愛実も私のことが嫌いなわけではないと思う。ただ、遠慮みたいなものが抜けないまま。特に愛実がグレたときは私のせいだと思ったから、あのときの申し訳なさは一生抱えていくしかないと紀美ちゃんは言うんです。そうなると第三者の僕が言えることはなにもなかった」

そこからしこたま飲み…

 なにが真実かなんてわからない、たとえ真実を知ったからといって今さら何かが変わるわけでもないと紀美子さんはため息をついた。それでもにっこり笑って、「こういう話ができただけでもありがたいと思ってる」と晶一さんを見つめた。

「それからしこたま飲みましたね、彼女。酒が強いんだなと思っていたら、突然、酔いが回ったみたいでぐだぐだになってしまった」

 タクシーを呼んでもらったが、とてもひとりで帰れる状態ではなかったから、晶一さんが送っていくしかなかった。住所を聞き出し、マンションの部屋の前で彼女のバッグをかきまわして鍵を見つけた。

「部屋に入れたのはいいけど、真冬だったからそのまま放置するわけにもいかない。靴を脱がせて抱き上げてベッドに運びました。ホッとして帰ろうとすると、彼女が『水』って。水をもってきて飲ませました。すごい勢いで飲んでいた」

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