“妹”と暮らし“姉”に惹かれ…「血の繋がらない姉妹」の間で揺れた41歳男性の10年間

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普通に結婚して子どもがほしかった…

 鍵をかけて新聞受けに入れておくからと言うと、彼女はなにもいわずに晶一さんの腕をつかんだ。思いがけない力の強さに、彼は紀美子さんの上に倒れ込んだ。その体を、紀美子さんは離そうとしなかった。

「なんてまずい状況なんだろうと思うのと同時に、僕は紀美ちゃんが好きだと気持ちが高揚してしまって。愛情なのか性欲なのかはわからない。紀美ちゃんは思っていたほど泥酔していたわけではなかったんだろうとも思う。ふたりともこうなることを予測していたのか、あるいはこうなってもいいやと思っていたのか……」

 今となってははっきりわからないが、そのときは自ら溺れに行った気がすると晶一さんは笑った。彼は彼で、愛実さんとの関係に少し疲れていたのかもしれない。

 それから2年の月日がたち、愛実さんは大学院に進んだ。そして彼と紀美子さんとの関係は続いている。

「愛実とは完全に同居人状態です。結婚という言葉も出なくなったけど、愛実はやはり僕を『家族』と称している。紀美ちゃんとは完全に恋人関係ですね。彼女もそれを望んでいるし、結婚に興味はないと言ってる。妙に平穏な日々なんです。一時期はこのままでいいのかと悩んだこともあるけど、愛実と婚姻届を出しているわけではないから、紀美ちゃんとの関係が不倫とも言えない。これはこれでいいんだけど、愛実が知ったらどうなるのかという不安はありますね」

 彼はときどき愛実さんの実家をひとりで訪れる。両親は相変わらず歓待してくれる。この人たちを裏切っていることになるのだろうかと思ってはいるが、愛実さんも紀美子さんもあまり実家に足を向けないので、晶一さんが行くしかないような気にもなっているそうだ。愛実さんと紀美子さんが会っているとも聞いていない。

「なんだかなあと思うことはありますよ。僕は普通に結婚して子どもがほしかったんだけど、愛実にその気があるのかどうか。だからといって今の生活はそれなりに充実している。“普通”じゃない生き方になってしまったなあという思いはあります」

 だからといって、それがいけないわけでもない。しかし20年後に後悔しないかと問われると「するかもしれない」とも思っていると、晶一さんは不安げだ。なりゆきまかせでいることに罪悪感があるのかもしれない。目の前のことを選択していく人生と、先を見すえて計画を立てて今を生きる人生、どちらがいいかは誰にもわからないのではないだろうか。

 ***

 晶一さんからしてみれば、複雑な家族関係に巻き込まれてしまった思いがあるかもしれないが……遡れば彼にも、愛実さんにある種の執着を抱いて同棲を始めた過去がある。【記事前編】で詳しく紹介している。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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