世界を翻弄する「トランプ大統領」を読み解くカギは“プロレス”にあった! 反則技を非難してもヒールが引き立つだけ…「髪切りマッチ」に参戦したことも

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現役レスラーに明かした本音

 1980年代中盤、WWEに在籍し、何度もトランプと食事を共にしたプロレスラーがいる。キム・ドクこと、タイガー戸口(77)だ。まだ30代だったトランプから、こんな言葉をもらったという。

〈あんたのヒールぶりは最高。俺はあんたの大ファンだよ〉(タイガー戸口著『虎の回顧録』より)

 戸口によると、当時のトランプは〈温和なジョーク好き〉だったそうだが、

〈「モハメド・アリは、大衆を引きつけるやり方、自分の見せ方をプロレスから学んでいるな」って話してた〉

〈トランプもプロレスから、ああいう煽情的なパフォーマンス、煽り方(中略)を学んだのかも知れない〉(前掲書より)

 もともと不動産王として高名だったトランプは、映画「ホームアローン2」(1992年)や、人気となったTVドラマなどに本人役で登場。2004年からは、若者が社員採用を目指すリアリティ番組「アプレンティス」(NBC)に、これまた本人として登場し、脱落者に、「お前はクビだ!(You're Fired!)」と宣告するホスト役で大人気を集めた。

 そのトランプとプロレスが直接リンクしたのが2007年4月1日。米団体WWEが主催した「レッスルマニア23」だった。

「バトル・オブ・ビリオネアーズ」(億万長者対決)と題された試合で、同団体社長のビンス・マクマホン(79)と、それぞれ身代わりのレスラーを立てて対決。互いに「カツラではないか」という疑惑があったため、代役のレスラーが負ければ、自分の髪の毛を刈られるという、いわば「敗者マネージャー髪切り対決」だった。

 トランプは入場時に、「大衆が欲しいのは金だ!」と、100ドル紙幣(本物)を会場に降らせ、試合ではビンスにラリアットやパンチを食らわすなど大暴れ。試合も勝利し、この放送は、1985年より毎年おこなっている「レッスルマニア」シリーズでも、それまでの最高視聴率を稼いだという。この試合の“貢献”もあり、2013年にはWWEの殿堂入りも果たしている。因みに先述のテレビ番組の「お前はクビだ!(You're Fired!)」という台詞は、ビンス・マクマホンが、役立たずの配下のレスラーに対して言う決め台詞を、そのまま借用したものであった。

 ここから、トランプのアジテーションは、明確に変わって行った。

大衆が何を求めているのか?

 2012年、共和党の大統領候補指名選挙にあたり、トランプは、ある疑義を繰り返した。

「オバマ大統領はケニア生まれだから、大統領になる資格はないのでは?」(※アメリカ生まれでないと、大統領にはなれない)

 実際は、オバマはハワイ州生まれであり、父親がケニア生まれで、調べればすぐにわかることだった(実際、トランプは2016年、大統領選に出馬すると、演説で「オバマ大統領は米国生まれ。以上」とあっさり前言を撤回している)。ところが、この説を、当時の共和党支持者の多くが信じたというデータが出たのである。

 結局、大統領候補選には出馬しなかったが、この時の問いかけが、「将来の大統領選に向けての大衆の反応調査だった」という見方は根強い。2016年大統領選出馬以降の、トランプの政敵に対する発言を抽出してみる。

「嫌な女だなあ!」(ヒラリー・クリントンとの討論中に)

「リトル・ロケット・マン」「気味悪い犬ころ」(北朝鮮の金正恩総書記を表して)

「(戦いが好きなら)銃を向けられたらいい」(タカ派で知られる党内のトランプ反対派に)

 WWEでディーバ(*女性のセコンドもしくはレスラー)を務め、現在は千葉県船橋市議会議員を務める鈴木ひろ子は、こう語る。

「アメリカのプロレスは、ヒールとベビーフェイスがはっきりしていて、ヒールの方が人気が高いのです。(トランプは)非難を受けることに対して、ガッツポーズをするような感覚があったと思う」(テレビ朝日「報道ステーション SUNDAY」。2016年11月13日放送分)

 世の中を敵、味方にはっきり分けて、扇動を重ねて行く。理性というより、感情に訴えて行く。確かに、反則行為をする相手を正論で批判しても、無駄であり、むしろ、引き立つのは相手の方ばかりである。トランプは、これを利用したフシがあった。そして、その助長が、以下の全く信憑性のない発言に繋がって行った感は否定出来ない。

「政府は災害対応でなく、違法移民に金を使った!」「殺人の犯歴のある1万3000人が国境を越えた!」(2024年11月2日。ノースカロライナ)

「スプリングフィールドでは、(移民らが)犬を食べている。やって来た人々が、猫を食べている。そこで暮らす人たちのペットを食べている!」(2024年9月10日のテレビ討論会)

 実業家時代の自伝にて、トランプ自身、こう述べていた。

〈宣伝の最後の仕事ははったりである。(中略)人は自分では大きく考えないかもしれないが、大きく考える人を見ると興奮する。(中略)私はこれを真実の誇張と呼ぶ。これは罪のないホラであり、きわめて効果的な宣伝方法である〉(『トランプ自伝 不動産王にビジネスを学ぶ』より)

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