谷村新司のCDアルバム復刻盤が“異例の高セールス”を記録し、サブスクでは新たなヒット曲も 「令和」で支持されるワケと人気楽曲の聴きどころを音楽マーケッターが解説
第3位『三都物語』(1992年9月2日)
JR西日本のイメージソングとして長く親しまれてきたタイトル曲の内容を、そのままテーマにしたアルバム。同曲の作詞は、多夢星人こと阿久悠で、それ以外の9曲は谷村が作詞している。全体で見ると、筒美京平作曲の「Answer Phone」までの5曲は、都会に生きる女性をテーマにしたポップス。女心を歌っているのは、’84年の『抱擁』とも共通するが、こちらは平成初期という時代性も反映されているのか、全体に洒落たイメージだ。後半の5曲は、愛を求めてさすらい「最終フライト」でたどり着くという、男性の生き様が描かれている。なかでも、谷村の詞曲で、船山基紀の編曲による「ノスタルジア」は、“ジャズクラブで飲んでいる”という設定どおり、歌声も演奏もふっと力が抜けていて心地よい。全曲を通して、谷村のあたたかな歌声が際立ったアルバム。
第4位『バサラ』(1993年4月16日)
サンスクリット語で「ダイヤモンド」を意味するタイトルを表すかのように、序盤の2曲「階 -きざはし-」と「バサラ」(それぞれNHK大河ドラマ『琉球の風』のテーマ曲と挿入曲)で、圧倒的なスケールや輝きを放つ。その一方、中盤では、「オリエンタル・カフェ」や「シンガポール・スリング」など大人の恋愛の駆け引きを描き、等身大の男性像も見せる。そして終盤の3曲「アゲインスト」「Four Seasons」「サライ(ソロ・ヴァージョン)」では、日々を懸命に生きる人々にエールを贈る。特に「アゲインスト」は、“敗れし者”を静かに讃えるような優しい歌声に浸れる。理想のダンディズムを描いたような作品だ。
第5位『伽羅(きゃら)』(1985年11月25日)
同じタイトル、同じメロディーの2曲を、憧れや挫折を描いた「浪漫鉄道<蹉跌篇>、夢追う人を讃えた「浪漫鉄道<途上篇>」とそれぞれ異なる詞で展開し、アルバムの最初と最後に収録。人生とそれにまつわる出来事を、鉄道と駅に例えて物語を展開している。その間に挟まれた9曲は、戦場で散った恋敵を想う「ジョニーは戦場に行った」、若かりし頃の恋人を祭り囃子で思い出す「祇園祭」、中年男性の悲哀を歌った「トランジット・エイジ」などが描かれる。第三者の視点で語り部に徹しているためか、どれも静かに語るような歌い方で、ラストの「浪漫鉄道<途上編>」では、その登場人物たちにエールを贈るように壮大に歌い上げるという構成のコンセプト・アルバム。
その他にも、ロンドン、パリ、ウィーンの交響楽団やオーケストラと共演した“ヨーロッパ三部作”の『獅子と薔薇』『輪舞-ロンド-』『プライス・オブ・ラブ』や、なかにし礼、三木たかし、筒美京平、鈴木キサブロー、秋元康、康珍化らに詞曲を多数ゆだねて大きく作風を広げた『君を忘れない』、短編ドキュメンタリーを集めたような『人間交差点 -ヒューマン・スクランブル-』など、意欲作を語ればキリがない。
谷村は深夜ラジオでの軽妙な下ネタトークや、昭和の“成人図書”コレクターとしての一面など、お茶目なキャラクターでも知られているが、音楽においては、常に新たなジャンルへの挑戦を続けていたのだ。ちなみに、先日、追悼1周年となったファンクラブ・イベントを見学したところ、彼の楽曲でよく使われている言葉が「風」と「夢」であることが語られていた。ファン層は、谷村と同年代の男女のみならず、30代・40代の男性も見られるなど、確実に広がっている。今回、凛とした態度で颯爽と進みつつ、人々を温かく送り出す谷村の作風を振り返るなかで、若い世代に受け入れられていることにも改めて納得した。彼の音楽人生は、惜しくも途絶えてしまったが、その作品たちは「風」や「夢」となって、今後も人々の記憶のなかで愛され続けるであろう。
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