「街中で若者がイチャイチャ」「スマホでガンガン撮影」 映画館もライブも禁止だったはずが…古市憲寿も驚いた「サウジアラビア」の激変ぶり

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 ラマダンのサウジアラビアへ行ってきた。少し前のサウジアラビアのイメージといえば、厳格なイスラム教国。映画館も音楽コンサートも女性の運転も禁止。巡礼と商用を除いて外国人の入国も認められなかった。

 そのサウジは今、皇太子主導の下で急激な社会変革の最中である。一つの目玉がインバウンド。石油偏重の経済から脱却するために、観光にも力を入れると宣言したのだ。実際、2019年からはオンラインでも現地の空港でも、簡単に観光ビザが取得できるようになった。それ以前を知る人からすれば隔世の感がある。

 だが、そうはいってもサウジアラビアだ。そんな簡単に社会は変わるものなのか。2020年版の『地球の歩き方』を読むと、外国人でも女性はアバヤを着用すべし、男性もできるだけ肌を露出しない、写真撮影には細心の注意をといったことが書かれていた。ラマダン中は信仰心が高まると聞いたことがあるから、僕も少し慎重な気持ちで首都リヤドの空港に降り立った。

 結論から言えば、サウジ社会は大きく変わっていた。地方は分からないがリヤドでは、着実に世俗化が進む。多くの観光客はアバヤを着ていない。みんなスマホでガンガン写真を撮る。トーブとアバヤ姿の若者が街中でイチャイチャしている姿さえ目撃した。

 それでもラマダンは国民のほとんどが実践する。期間中、日の出から日没まで飲食禁止だ。約12時間、どうやって飲食を我慢するのかと思ったら、昼夜逆転の生活をする人が多いらしい。日本で夜型といえば、つい自堕落な大学生などを想像してしまうが、世界を見渡せば宗教行為のために夜型になることもあるのだ。

 会社や学校は時間が短縮され、商業施設や飲食店は夕方オープン。深夜、時には朝方まで営業したりする。ちなみにサウジの真夏は気温が45度前後。夏も同様に夜型が増える。リヤドでは、深夜営業する遊園地やクラブまでオープンしたりして、ナイトエコノミーが活発。もしかしたら東京よりも夜の遊びには困らないかもしれない。

 ちなみにラマダンの日中であろうと、観光客向けにホテルのルームサービスは頼めるし、スターバックスやJoe & The Juiceなども営業している。さらに店内での飲食も可。Uberの運転手は、昼間はシーシャを吸って気を紛らせていた、と言っていた(厳密にはたばこやシーシャも禁止のはずだけど)。

 観光しやすくなったとはいえ、まだドバイほどの華やかさはない。そんなサウジアラビアは「ビジョン2030」を掲げ、SFのような都市開発を断行中。リヤドには各辺が400メートルのキューブ形の巨大建造物「ムカーブ」を建設中。サウジ北西部には全長170キロ、幅200メートルで、900万人の人口を収容する直線型高層都市「ザ・ライン」計画も進行中(早速立ち退き問題が起きている)。そして2030年にはリヤド万博も開催される。衰退国家の最後のあがきのような大阪万博との対比が楽しみである。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目され、メディアでも活躍。他の著書に『誰の味方でもありません』『平成くん、さようなら』『絶対に挫折しない日本史』など。

週刊新潮 2025年4月10日号掲載

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