「目黒区内のJR目黒駅」「対処療法」「深堀りする」と誤記してしまう“共通の理由”…プロの校閲者も警戒する“危険な落とし穴”とは
大きな文字ほど要注意
思い込みの事例は、熟語にもあります。
豆知識的に羅列しますが「捜査令状」ではなく「捜索令状」だったり、「深堀りする」は「深掘りする」、「対処療法」は「対症療法」だったり。これらは原稿でもよく出てきます。
さらに、業界ではよく言われることですが、「大きな文字ほど要注意」。タイトルや表紙など、すぐ気づきそうなところに、まさかと思うような誤植が残っている可能性があります。これは、「みんなが見ているところだから間違っているはずがない」という思い込みに由来するものです。校閲という仕事は思い込みとの闘いでもあります。
芸能ニュースでも思い込みの可能性が。NHK朝の連続テレビ小説「虎に翼」(2024年放送)で、伊藤沙莉さんが演じた主人公 “トラちゃん”の本名、寅子の正式な読みは「とらこ」ではなく「ともこ」です。記事内でルビが振られている場合など、「とらこ」になっていないか注意する必要があります。ドラマの中でもトラちゃん、もしくはトラコと呼ばれることが多かったので、毎朝見ていたから間違えない、とは一概に言えないでしょう(詳しい、と自負している分野ほど見逃しに注意です)。また、「沙莉」さんの読みも「さり」ではありませんね。
「スーパー校閲者」
経済ニュースでも同様です。例えば、“大企業は上場している”というのは思い込みの典型例で、年間売上高1兆円超の巨大企業「竹中工務店」は非上場ゆえ「東証1部上場の竹中工務店」ではありません。しかも今は東証1部ではなく東証プライムです(これは私の意地が悪い?)。
こうした事例は、みなさんの生活の中でもありますよね。大事なデート。とっておきのあの店に行こう。当日でも大丈夫なはず……と思い込んで予約せずに訪れたら、そもそも定休日だった。「こんなに晴れているのだからまさか雨が降るはずはない」と思い込んで、天気予報を確認せずに傘なしで外出したら夕立でびしょ濡れに……。日常生活には、思い込みによる落とし穴がたくさん潜んでいます。
……と、偉そうに書いている私もよく、家を出る時バッグに財布やスマートフォンを入れ忘れて、駅までの道を引き返したりします。せめて校閲ゲラの上でだけは、思い込みをきちんと排除できるスーパー校閲者になりたいものです。しかし、「自分はスーパー校閲者である」と思い込んだら今度はその過信ゆえ単純なミスを連発するでしょう。世の中、そう簡単にはいかないものです。
【答えの解説】
まず、報道機関で一般的に調査されているのは「内閣支持率」なので、「石破茂総理大臣の支持率」ではなく「石破茂内閣の支持率」(もしくは「石破内閣の支持率」)のほうが適切です。「総理大臣 支持率」などと検索しても内閣支持率の結果ばかりが出てくると思います。検索結果を見て「あれ?」と立ち止まることが大事です。
次に、「下落の一途」という表現ですが、例として読売・毎日・朝日の各新聞社やNHKの世論調査結果を見ると、どれも常に下落し続けているわけではなく、前回比で上昇している回もありますので、はっきり「下落の一途」と言ってしまっていいのか、やや疑問が残ります。そのため、「総じて下落傾向にある」もしくは「総じて下落基調にある」とするなど、表現を緩める方向で校閲疑問を出すのが良いでしょう。なお、今回の問題における具体的なファクトチェックの方法ですが、
(1)「必ず一次情報で確認する。すなわち、SNSの伝聞による投稿などではなく、新聞社やテレビ局などのホームページそのものを確認する」
(2)「偏りを防ぐため、世論調査の結果には1社ではなく数社分、あたってみる」
この2つがポイントとなります。



