活動自粛から2カ月「高比良くるま」は何してるんだろう 騒動前に出た漫才論を読み返して見えてきたもの

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不在の間に台頭するライバルたち

 今、くるまはどういう精神状態なんだろうか。

 活動自粛を宣言した際は、「とにかくまずは一刻も早く姿を消したい」という一心だったと思われる。スーツも着ずに慌ててYouTubeに出ていたのがそれを物語っていた気がする。

 自粛後、オンカジや不倫について報道されていた最中には「俺もこうなっちゃうと、よくある感じの立ち回りしかできないもんなんだなぁ」と自嘲の海に漕ぎ出し。それが落ち着いた今は、ひとり凪の中に浮かんで、今後について考えていることだろう。その脳内に浮かぶのは、どんな未来なんだろうか。

 芸人が売れるプロセスとして、「何か賞を獲る」→「ひな壇やロケなどで露出が増える」→「深夜の番組でMC」→「深夜で冠番組を持つ」→「ゴールデンで冠番組を持つ」で上がりとするのが一般的であった。

 令和ロマンはこの慣例に倣わず、ロケやひな壇を好まず、ネタ番組のオーディションなども断り、劇場での漫才に焦点を絞って腕を磨いて来たと本にある。そのストイックさと、結果を出せる実力とが相まって、これまでとは違うベクトルの芸人と認識され、スターの階段を駆け上ってきたのだ。このまま行けば、従来とは全く違う異質なトップ芸人として、若くして伝説的存在となり得たはず。いや大げさではなく、それくらい、既存の芸人にはない独自の輝きを放っていた。

 三日天下のごとく姿を消した後は、バッテリィズなどの同世代のライバルたちが存在感を増しつつある。本書の巻末で対談していた霜降り明星の粗品など、令和ロマンの台頭で一番割を喰っていたクチ。「尊敬する先輩です」とくるまが持ち上げれば持ち上げるほど、お笑いに対する取り組み方や熱量、好感度など、全てにおいてくるまの優位性が際立ってしまう皮肉な結果となっていたのだが。くるまの居ぬ間に務めた漫才新人賞の審査の論評が的確だったということで「素行はともかく、やっぱりスゴいんじゃないか」と再評価され始めた。まあ、粗品の場合、YouTubeでの暴言など、問題児っぷりは絶対に改まることはないだろうが。あれはあれでもう、令和の横山やすしということで。

 話が逸れたがくるまである。今、彼の本懐はどこにあるのか。パワーアップして何事もなかったかのように戻って来るのか。例の件も含めて自虐の笑いに変えてくれるのか。それとも……考えたくはないのだが、相方のケムリがタレントとして独り立ちするのを見届けて、芸人をやめて裏方に回ったりしてしまうのか。これはもっと考えたくないのだが、スッパリと芸能界から足を洗って消えてしまうのか。

 繊細で突き詰め型の人間というのは、余人には想像もつかない思考回路を経て、極端な結論を出しがちである。どうかそんな自分自身を、客観的にしっかり考察して欲しい。本文の言を借りて言うなら「まだ使命があるというのか」。

 ……あるんだよ!

今井舞(いまい・まい)
東京生まれ。小学校から大学まで、バカばっかりのエスカレーター式女子校にて、観察眼を鍛えながら過ごす。大学在学中にライター業を開始。美容を中心に、ファッション、インタビューなど、何でも屋として活動中に、タレント格付け本『女性タレントミシュラン』(情報センター出版局)を出版。裏バイトで始めたつもりのテレビ批評がいつの間にか生業となり、現在に至る。

デイリー新潮編集部

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