活動自粛から2カ月「高比良くるま」は何してるんだろう 騒動前に出た漫才論を読み返して見えてきたもの

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 発売された当時、たちまち話題になり、あっという間にベストセラーとなった「漫才過剰考察」(辰巳出版)。出版から半年以上。もうあらかた書評は出尽くした感はあるのだが。

「芸人なんて、まともな人間がやる仕事じゃない」と言われたのも今は昔。芸人は、名実ともに花形職業となった。お笑いも、文化の一ジャンルとして確立。同時に、真面目な評論の対象にもなるように。SNSの浸透で、誰もが御説を垂れ流せる現在。芸人やネタに関する分析やら批評やらが世に溢れかえっている。

 そこに出た本書である。令和ロマン・高比良くるまは自身が優勝した「M-1グランプリ」を振り返り、この大会の本来あるべき姿はこれじゃなかったと、冒頭からいきなり反省。自虐などではなく、本当に腹の底から悔いて、自身の使命はM-1を盛り上げることにあったのに、それができなかったと嘆く。次回出場を表明したのは、連覇のためではなく、その挽回をするためだとも。

 そして彼独自のM-1を盛り上げるメソッドが紐解かれる。他の出場者の漫才のスタイル、ネタのベクトルやストックの幅、会場の舞台面積や客席との距離、マイクの種類。そんなことまで? と呆れるほどマニアックに把握・加味して解説。自分たちがどう立ち回れば大会が盛り上がるか、微に入り細に入り詳らかにしていく。

 芸人人気に関しても客観的に分析。ミーハーな「ワーキャー的ファン」と、気難しい「ネタ原理主義ファン」の対立を鑑みたり、寄席と大会における客の心理の違いについて考えを膨らませたり。更には、西のお笑いと、非・西のお笑いについての違いに思いを馳せ、既存の考察とは異なる次元で解析。それは東西で終わらず、東西南北、果ては世界までを捉え、考えが巡って行く。

 上から目線の批評とも、小難しい解説とも違い、繰り広げられるのは、タイトル通りのただただ過剰な考察。読み進めるうち、寝ても覚めても笑いについて突き詰め続けている著者の脳内を覗き見したような気分に。

 ノイローゼ気味ではあるものの、なぜかそこに不快感はなく。専門用語の羅列で煙に巻くのではなく、あくまで平易な言葉で笑いを探求した本書は、マニアックなお笑い好きも、笑いに興味のない素人も、ある種のノンフィクションとして、興味深く読み進められるはず。

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