スシロー、すき家、サイゼが「美食の街」で大奮闘… 日本の外食チェーンは現地民の胃袋をどう掴んだか

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ローカライズの難しさ

 ローカライズといえば、牛丼チェーンでは吉野家も進出している。だがこちらはすき家と違い、直営ではなく香港企業であるHop Hing Groupがフランチャイズ経営をしている。そのため、ローカライズの度合いが強い。

 たとえば、私が訪れたときには、「桜海老うどん」と牛皿と半熟たまごのセット(約700円)がシーズン限定品として販売されていた。吉野家でうどんという点でも珍しいが、トマトベースの甘いスープに桜エビとコーンとワカメがのっているという、日本ではまず見かけないものだった。正直、日本人で口に合う人は少ないと思われるが、現地の舌にはマッチしているのかもしれない……。ほか、朝のメニューに、桜エビとハンバーグ厚切りソーセージなどを挟んだホットドック(約440円)があった。“牛丼一筋”の吉野家のイメージが頭にこびりついている日本人は、香港の吉野家を訪れるとビックリする。

 このように、地元資本のフランチャイズは地域密着メニューで勝負しているものの、先に紹介した直営の日本外食チェーンと比較すると、人気は今ひとつだった。少し前まではそれで成功していたであろうことを想像すると、ローカライズの難しさを感じた。

 このほか、外食チェーンとは少し異なるが、1948年に大阪で誕生したエーワンベーカリーは、地下鉄駅売店などでよく見かけた。香港進出40周年を迎え、地元住民にとって無くてはならない店となっていて、数年後には店舗数で香港NO.1のベーカリーとなりそうだ。

 また、おにぎりはセブン-イレブンやサークルKなどのコンビニでも販売しているほか、華御結という日本人が香港で設立したチェーンが、100店舗以上を展開している。日本米の輸出にも一役買っていきそうだ。

中国本土へ展開の期待

 香港は“中国のシリコンバレー”と呼ばれる中国・深センの往来が2023年より段階的に解禁されている。地下鉄で約40分で行くことができ、しかも物価が4割ほど安いため、訪れる人も多いようだ。

 街を歩いてみたが、日本の外食チェーンも出店しているものの、香港ほどの盛り上がりはない。物価が安い事もあり、損益を考えると出店に課題があると推察される。だが、日本の外食に接する人が多くなれば、香港から深セン、そして広州と、中国南部の巨大市場の進出の足掛かりになっていく。そういった意味では、試金石となりそうなのが深センだ。

 いくつかの外食チェーンを見て、強さの秘密は“真似されにくさ”にあるように感じた。たとえば、ニトリや無印良品といった製造小売業は、労働賃金の低い国の工場で商品を製造して品質管理を徹底、ブランディングして販売するという、比較的シンプルなビジネスモデルである。対して、外食チェーンは、原材料の仕入れ先も多岐にわたり、それを店内やセントラルキッチンで調理する工夫、そして店舗での運営コストも抑えなければ成立しない。前述のようにエリアの食文化に合わせてローカライズ化する必要もある。確立するまでの難しさはあるが、勝ち筋を見つければ競合が真似しにくいビジネスといえる。

 こうした外食の仕組み作りは、平成デフレの停滞による安さと効率の追求で、日本企業が得たノウハウである。相対的に悪い事が多かった平成デフレだが、日本の外食チェーンが誇る「きめ細やかかつ効率的、比較的誰でも運用ができる仕組み」を生んだ功績もあるのかもしれない。香港の街中のように、アジアを中心に世界の街並みに日本の外食チェーンが溶け込み席巻する事を期待したい。

渡辺広明(わたなべ・ひろあき)
消費経済アナリスト、流通アナリスト、コンビニジャーナリスト。1967年静岡県浜松市生まれ。株式会社ローソンに22年間勤務し、店長、スーパーバイザー、バイヤーなどを経験。現在は商品開発・営業・マーケティング・顧問・コンサル業務などの活動の傍ら、全国で講演活動を行っている(依頼はやらまいかマーケティングまで)。フジテレビ「FNN Live News α」レギュラーコメンテーター、TOKYO FM「馬渕・渡辺の#ビジトピ」パーソナリティ。近著『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』(フォレスト出版)。

デイリー新潮編集部

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