スシロー、すき家、サイゼが「美食の街」で大奮闘… 日本の外食チェーンは現地民の胃袋をどう掴んだか
すき家とサイゼの戦略
外食が盛んな香港には“モーニング文化”もある。それを上手く取り込もうとしているのがすき家だ。
通粉(マカロニスープ)やボーローバウ(パイナップルパン)が一般的な香港の朝食だが、すき家が推すのは日本式の「朝定食」。日本でもおなじみの、ご飯にみそ汁、たまご、海苔、漬物という定食である。価格は約440円と、香港でとる朝食としては最安値に近く、牛皿をつけても約640円である。
これを可能にする店舗運営から食材仕入れなど日本の外食チェーンの緻密な戦略が、うまく海外にマッチしたということだろう。もちろん、ただ安いだけでなく「ジャパンクオリティ」が香港の人びとの心を掴んでいることは言うまでもない(品質への信頼こそが支持の原動力であるだけに、昨今の異物混入問題は、極めて惜しまれる事態といえる)。
「日式のイタリアンレストラン」としてサイゼリヤも人気だ。ローカル食堂にもスパゲティなどが提供されるが、洋食の「専門店」となると、比較的、香港に数は少ないそうだ。ブルーオーシャン市場をうまく取り込んだ、といえるかもしれない。
ボロネーゼが約600円と、ローカル食堂の麺類とそう変わらない価格設定で、イタリアンレストランなのにお手頃という点も魅力的に映るようだ。ただし先述のとおりメニューの豊富さが求められるお国柄ゆえ、パスタだけでも14種類というラインナップだった。日本の店舗では10種類であることを鑑みると、品数はローカライズされていることがわかる。
定着している意外な日本のラーメンチェーン
これらの御三家とはまた異なる形で、ラーメンの人気も目の当たりにした。
日本からは、一蘭、一風堂、三田製麺所、阿夫利(あふり)など多くが進出している。価格は約1,800円~3,000円ぐらいで、日本と比較すると高い。カップルなどがデートで利用するような、ちょっとした贅沢の場所として定着しているようだ。庶民的なレストランや中華麺の店ではない、10%の「サービス料」が請求されることからもそれがわかる。
ラーメン人気は、米ロサンゼルス取材のときにも目の当たりにした。どうやらインバウンドで日本を訪れた観光客がその魅力を知り、母国でも需要が生まれる……という流れがあるようだ。その最たる例が寿司だが、ラーメンも海外の大都市圏から定着する予感がしている。
人気の秘密は、味のインパクト、チェーン店によって異なるバリエーション、そしてクオリティの高い職人技による日本食文化を体験できる、という点にあるようだった。
ある種の“高級レストラン”的な形で香港に馴染んでいる日本のラーメンチェーンだが、香港に数店舗をかまえる熊本の味千(あじせん)ラーメンは、庶民派の店として香港で知られている。首都圏の人には馴染みがないチェーンかもしれないが、1996年とかなり早い段階から香港に出店していて、今では街中に溶け込んでいる。
熊本発のチェーンなので、提供するのは豚骨ラーメン。“朝ラー”してみたが、約750円というローカル中華の麺類と同価格でありながら、サービス料もかからない。日本人の私が食べても安定のおいしさだった。ただ周りの客を見てみると、ラーメンを食べている人は半分ぐらいで、あとは860円の「牛皿定食」を注文していた。進出29年目で、エリアに合わせてローカライズ化したメニューが浸透している良い例だろう。
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