映画と音楽を行き来する「岩井俊二」の才能 バンドも結成、“無音カラオケ”は「自分がやりたいだけ」

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音楽映画は命がけ

 この三部作は、けっこうディープなテーマを扱っており、重い印象もある作品たちだ。

「確かにディープですが、年末の紅白歌合戦ですら、7、8割の曲は楽しい曲じゃないですよ。モー娘。の『LOVEマシーン』ですら社会を憂えている曲です。歌詞に甘い砂糖がまぶされていても、根底には社会問題がある。めちゃくちゃディープなテーマを皆さんが音楽にしているんです。だから音楽を映画にした途端、具象化された社会テーマが封印を解かれて暴れ出す。だから音楽映画をライフワークにするのって命がけなんです」

歌詞に込める思い

 2011年の東日本大震災では、地元の仙台も大きな被害に遭った。翌年に発表されたチャリティソング「花は咲く」の作詞をした。

「『花は咲く』は、曲が先にあって詞を書いたんですが、実は自分なりに頭の中にあったメロディーにのせて書いたんです。『大きな古時計』のような曲のイメージで。亡くなった大勢の方々に向けて何を書いたらいいんだろう、とも思いましたが、遠くに離れて故郷を望む目線って、亡くなった方々に近い目線で書けるんじゃないかと考えました」

バンド「ヘクとパスカル」を結成して

 2013年からはバンド「ヘクとパスカル」を結成し、ギターを担当している。

「ギターは若い頃、いわゆるFの壁に阻まれて以来だったので、ゼロからのスタートでした。でも、ピアノだと半音の多い黒鍵を使うコードはあまり使えなかったのが、ギターってそれが簡単に弾ける便利な楽器で。いろんな調を弾くうちに慣れてきて、ピアノにもそれが応用できるようになってキーがD#でも怯まなくなったり。ベースも始めると今度は指板が理解できるようになって、それがまたギターに応用できたりと。上手くはないにしてもいろんな楽器をみんなに合わせて弾けるぐらいはやれるようになりました」

 好きこそものの上手なれとは言うが、芯の部分に音楽が厳然として存在している証だろう。

 現在は公式YouTubeで、Salyuをはじめ、安藤裕子、大塚愛らとセッションを披露。権利関係で音源を出せない際は、詞を朗読し、それが「無音カラオケ」という企画となって好評を博している。無音カラオケで紹介した歌を改めて自身らで演奏したりもする。

「映画を見てもらうターゲットとは全く違うことをやっています。バズりたいとかではなくてただ自分がやりたいだけなんですが(笑)」

 学生時代から音楽に向き合い、変わらずにやってきたことがさまざまな形で発現している。今後もあらゆる音楽の種が形になっていきそうだ。

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 第1回【岩井俊二の音楽遍歴 名作たちに広がりをもたらすセンスは、いかに育まれたか】では、幼少期の音楽変遷から音楽と映画に向き合った時代について振り返っている。

デイリー新潮編集部

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