BEGIN「下積みなしでデビューしたのがコンプレックスだった」 “同期”の福山雅治との変わらぬ関係性や名曲『涙そうそう』誕生秘話も明かす

  • ブックマーク

「オジー自慢のオリオンビール」「パーマ屋ゆんた」独特な歌詞に込めた想い

 そもそも、『ビギンの島唄』シリーズがどのように始まったのかを尋ねてみた。

比嘉「この頃、ブルースのルーツはアメリカだと意識し始めて、“じゃあ、自分たちのふるさとはなんだろう”と考えたところ、島唄と日本の流行歌だと思い至りました。僕の場合は、親父の影響で田端義夫さんも好きで、洋楽だけでなく、ジャンルを超えていろんな音楽が好きなんです」

比嘉「そうやっていろんな音楽の素晴らしさに気づいたからこそ、『涙そうそう』や『島人ぬ宝』、『三線の花』といった曲ができたんです。あなたと私が主人公のラブソングも素晴らしいけれど、その2人が出会って、恋をした時に、近所のおじちゃん、おばちゃん、自分の家族にも支えられていたという日常があるんですよね。だから、2位の『三線の花』のように、主人公が近所のおじいさんだったり、床の間が出てきたりする作品も、ちゃんと聴かれているのが嬉しいです」

『ビギンの島唄』シリーズ内では、コンサートでも老若男女問わず賑やかになる「オジー自慢のオリオンビール」が最上位(第4位)だ。

上地「これこそライブの定番曲ですね。全国的に有名な『笑顔のまんま』(第5位)より人気とは、すごい!」

島袋「お客さんも、わざわざオリオンビールの缶を持参してくれていて、歌に合わせてカバンからさっと取り出しているのが見えます(笑)」

 特に、同シングルのエイサー・バージョンは、威勢の良い太鼓の演奏も大きな魅力だが、“良い子はジュースであっり乾杯”というフレーズが追加されているところも、とても家族想いでBEGINらしさを感じる。

比嘉「いえいえ、これは琉球國祭り太鼓のエイサー隊の方から、“隊員には未成年の子もいるから、その子どもたちにスポットが当たるような言葉も入れてくれないかな”と言われたのがきっかけ。確かに大人だけで唄ったり、飲んだりする歌じゃないので、その歌詞を足しました。だから、僕のアイデアじゃないんです」

 とはいえ、その柔軟な姿勢こそがBEGINらしさとも言えるだろう。歌詞の魅力と言えば、Spotify第12位の「パーマ屋ゆんた」のサビのフレーズ、“なんで なんで あんたの人生さ”の、“なんで”にも、標準語では伝わらないニュアンスがあるようだ。

比嘉「これは沖縄独特の言葉ですかね。“なんで、なんでよー”って島のおばちゃん達がよく使っていますが、(メンバーに向かって)標準語だと何て言うのかな?」

島袋「“なんで、そんなに悩むの? あなたの人生でしょ”みたいなニュアンスですよね。確かに、標準語では端的には言えないかも」

上地「でも、悩むというよりも、もっと軽いニュアンスですね。ドンマイ、みたいな」

比嘉「当時、日本全国に大きなスーパーマーケットが次々とできたことで、なじみの商店街が姿を消し、自分のふるさと=帰る場所がなくなった、という話を耳にすることが多くなったんです。だから、歌の中で島の人たちの日常のひとコマを語り口調で届けたいと思ったんですよね。ちなみに、作詞、作曲の“ちゅんなーや”は、僕のことです(笑)。うちの祖父の旧姓が元になっています。島の風景を歌うので、じいちゃんの名前にしました」

島袋「アルバムの中で一緒に作曲している“弦助”は、僕の祖父の名前と、ギター弾きの“弦”をかけ合わせました」

上地「僕は、何も考えずに本名です(笑)」

 そんなふうに、ちょっとした言葉遊びもあるので、Spotify第20位のアルバム曲「黄昏」も、“『黄昏』を歌うBEGIN”=永六輔が作詞した名曲『黄昏のビギン』にかけているのかと思いきや、

「いえ、まったく。ちょうどコロナ禍で、時代の黄昏を見ているように感じたんです」

 と肩透かしを食らった(笑)。

 自分が勝つための計算はないけれど、相手を思いやるための配慮は楽曲の節々から感じられるのが、BEGINの大きな特長だろう。ライブ会場でも、穏やかな観客が多く見られるのは、そんな音楽性も大いに影響していると感じた。最終回となるインタビュー第3弾では、彼らが開発に携わった楽器『一五一会』や、近年、歌うようになった独自の音楽ジャンル“マルシャ ショーラ”についても語ってもらおう。

【INFORMATION】
◎35周年イヤー記念 ベストアルバム発売!
’25年1月29日、35周年イヤーを記念したCD2枚組ベストアルバム『BEGIN さにしゃんベスト』が発売に。「さにしゃん」とは、石垣島の方言で“うれしい”という意味。詳細及び収録曲は特設サイトにて

◎35周年記念公演開催!
’25年3月、東京と大阪にてBEGIN35周年記念公演『さにしゃんサンゴSHOW!!』の開催が決定。チケット情報は特設サイトにて
《大阪城ホール》 ’25年3月22日(土) 開演16:00/開演17:00
《日本武道館》 ’25年3月30日(日) 開演17:00/開演18:00

【BEGIN プロフィール】
比嘉栄昇(ボーカル)、島袋優(ギター&ボーカル)、上地等(キーボード&ボーカル)からなる3人組バンド。全員、1968年に沖縄県石垣島で生まれ、上京後バンドを結成し、’89年にオーディション番組『三宅裕司のいかすバンド天国』(TBS系)にてグランドキングを勝ち取り、’90年3月21日、シングル「恋しくて」でデビュー。日産自動車のCMソングに採用され、いきなり累計20万枚を超えるヒットとなった。’00年代になって「涙(なだ)そうそう」「島人(しまんちゅ)ぬ宝」「三線(さんしん)の花」など、老若男女に歌い継がれる多くの楽曲を生む。近年は、ブラジルやハワイで海外公演を行うなど活躍の場を広げ、ブルースから島唄まで多彩な音楽性と温かいサウンドで多くのファンを魅了し続けている。

臼井孝(うすい・たかし)
人と音楽をつなげたい音楽マーケッター。1968年、京都市生まれ。京都大学大学院理学研究科卒業。総合化学会社、音楽系の広告代理店を経て、'05年に『T2U音楽研究所』を設立し独立。以来、音楽市場やヒットチャートの分析執筆や、プレイリスト「おとラボ」など配信サイトでの選曲、CDの企画や解説を手がける。著書に『記録と記憶で読み解くJ-POPヒット列伝』(いそっぷ社)、ラジオ番組『渋谷いきいき倶楽部』(渋谷のラジオ)に出演中。データに愛と情熱を注いで音楽を届けるのがライフワーク。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。