選択的夫婦別姓に反対するのは「高齢者のウケが悪いから」ではないのか 「慎重な議論」というマジックワードで本音をごまかす政治家たち(古市憲寿)
「そのうちご飯でも行きましょう」「ぜひぜひ」。日本中で交わされる会話だと思うが、期限を決めない約束は実現することはほぼない。いわゆる社交辞令だ。
速報「コメは来年秋まで高いまま」専門家が不吉な予測を口にする理由 輸入米に頼ると「食料を止められると終わり」の国に
速報「今年に入ってから、2度ほど死線を」 森喜朗元首相の深刻な病状とは
速報泥酔して「店長にヘッドロック」「テーブルひっくり返し」 立川・小学校襲撃の46歳“地元の顔役”の危ない素顔 「気に入らないことがあると途端にスイッチが」
似たような意味で政治家が使う言葉がある。「慎重な議論」だ。国民民主党幹事長の榛葉賀津也さんが「産経新聞」の取材で、選択的夫婦別姓の是非を問われ、その言葉を使っていた。榛葉さんといえば、前回の総選挙で株を上げた一人。本気で玉木雄一郎さんを推す街頭演説の動画は、多くの人に視聴された。
僕も榛葉さんを熱のある人だと思っていたから、「慎重な議論」という言葉に驚いた。いわく、「家族のあり方は日本の伝統もある」。特に親子別姓の問題に関しては「問題があまり議論されていない」。だから選択的夫婦別姓に関しては「慎重な議論が必要」だというのだ。
全く同じようなことを自民党の小林鷹之議員も言っていた。総裁選で有名になった「コバホーク」である。小林さんいわく、選択的夫婦別姓は「拙速に結論を決める性質の話だとは思わない」。「時間をかけてでも、しっかりと議論することが重要」だという。
僕は、榛葉さんにも小林さんにも心底がっかりした。選択的夫婦別姓に関して賛否があるのはいいだろう。だが二人は、絶対に知っているはずの、ある事実を隠して発言している。もしくはとんでもない勉強不足かのどちらかである。
選択的夫婦別姓はもうすでに十分過ぎるほど議論されているのだ。書籍では1986年に井上治代さんが『女の「姓」を返して』、1987年には星野澄子さんが『夫婦別姓時代』を出版、この問題を提起していた。1989年には別姓での婚姻届が受理されなかった夫婦が、家裁に提訴するという事件も起きている。
1991年には法務省が「婚姻及び離婚制度の見直し審議」を開始、1994年には夫婦別氏のあり方について3案を提示した。この時から子どもの姓をどうするかの方針は示されている。しかも1996年には法改正一歩手前まで進んだ。
つまり選択的夫婦別姓は、社会的には約40年、政治的にも30年以上も議論されているのだ。榛葉さんや小林さんが知らないはずがない、もしくは40年でも十分ではないというのか。確かにそんな時間感覚の政治家がいてもいいだろう。それなら二人が掲げる「103万円の壁」や「経済安全保障」といった問題も、30年、40年かけてじっくり議論すればいい。
選択的夫婦別姓に反対したいなら「高齢者のウケが悪い」とか「票田を失いたくない」とか本音を言えばいい。それを「慎重な議論」や「時間をかけて」という言葉でごまかすのは、政治家として最悪だ。恐らく明確に反対しないのは、賛成派もつなぎ止めておきたいからだろう。だが政治家の最大の仕事は意思決定である。明確にYESとNOを示す必要がある。「慎重な議論」というあらゆる変化を拒むマジックワードの使用を許してはいけない。