自宅に火炎瓶、メールはすべてハッキング…「民主派45人有罪」香港で“習近平が最も消したい男”が語っていた中国の“恐るべき迫害”

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 香港ではいま、1997年の中国返還以降、50年間は民主主義や政治体制、自由経済を維持するとした「1国2制度」が崩壊しつつある。香港高等法院(高裁)が今月19日、香港国家安全維持法違反の国家政権転覆共謀罪で、民主派45人に対して禁錮10年から4年2月の量刑を言い渡したからだ。民主主義の根幹である批判勢力の活動を規制するもので、欧米諸国からも批判が出ている。

 また、この判決の翌日には香港の大手メディア創業者で、国家安全維持法違反の国家政権転覆共謀罪で起訴されている民主活動家・黎智英(ジミー・ライ)氏の裁判が4カ月ぶりに再開された。ライ氏が初めて供述し、「香港の人々が自由を享受できるよう願って行動した」と強調した。ライ氏は9年前の2015年5月、香港で筆者の単独インタビューに応じた。それを振り返ると、民主化運動への中国の迫害の恐ろしさがわかる。
【相馬勝/ジャーナリスト】

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 民主派の元議員ら45人は4年前、立法会(議会)選挙をにらみ、民主派独自の予備選挙を行った。これは、当選が有力な候補者を絞り込むためだ。人気がある候補者が立候補すれば当選の確率が高くなり、議会で過半数を獲得できる可能性も高まる。過半数を確保したうえで、予算案を否決し、最後は中国寄りのトップを辞任に追い込むことを目的としたものだ。これは多くの国・地域で野党がとる正当な政治手法だ。だが、裁判所はこれを国家安全維持法違反の国家政権転覆共謀罪に当たるとして元議員ら45人の被告に量刑を言い渡したのだ。

報道自由度ランキング135位

 現在の香港の選挙では中国政府に支持されている「愛国者」しか立候補できず、最高指導者の香港行政長官選挙でも同じで、対立候補は出馬することすらできない状況だ。1997年の中国返還の際、中国と英国は香港の「1国2制度」を維持することで合意したが、いまや香港は中国と一体化し、その政治体制は「1国1制度」と言ってもよいだろう。

 それを端的に表しているのが、世界の報道の自由度ランキングだろう。国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」によると、今年の香港のランキングは世界135位だった。中国返還5年後の2002年には世界18位だっただけに、117位も下降している。実は、2022年は今年よりも悪い148位まで下落したのだが、これは21年に中国共産党に批判的な新聞「蘋果日報(リンゴ日報)」が廃刊に追い込まれ、ネットメディアの「立場新聞」や「衆新聞」も活動できなくなったためだ。その後、香港から中国に批判的なメディアはほとんど姿を消している。

容疑を否定

 このリンゴ日報や週刊誌「壱週刊」、ネットメディア「壱媒体(Next Digital)」の創業者が黎智英(ジミー・ライ)氏だった。ライ氏は前述、20日の裁判で、リンゴ日報などを立ち上げたことについて、「1989年に中国・北京で起きた天安門事件がきっかけだった」と述べたうえで、「法の支配や民主主義の追求、言論や集会の自由といった価値観を支持し、香港の人たちがより多くの情報を得ることで、そうした自由を享受できるよう願っていた」と主張した。

 一方で、2019~20年にかけて、最大で約200万人が参加した大規模な香港政府への抗議デモをめぐっては「いかなる形の暴力にも常に反対してきた。その立場はリンゴ日報の報道でもそうだった」と強調し、デモ隊を扇動したり、「外国勢力と結託して国家の安全に危害を加えた」との容疑を強く否定した。

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