自宅に火炎瓶、メールはすべてハッキング…「民主派45人有罪」香港で“習近平が最も消したい男”が語っていた中国の“恐るべき迫害”
ユニクロに影響
ライ氏はメディアに「中国が最も消したい男」と書かれることも少なくない。なぜ彼は民主化運動に身を投じるようになったのか。ライ氏は9年前の筆者のインタビューで、12歳で中国広東省から密入国したときのことから語り始めた。
「55年前(1959年)、12歳のとき、1人で漁船の底に隠れて香港に渡ってきた。私は9歳で鉄道の駅で乗客の荷物を運ぶ仕事を始めた。香港やマカオからやってくる外国人が中国人とはまったく違って見えた。中国とは違い、外の世界には自由と尊厳があるのだと感じた。だから、香港で暮らすことを選んだのだ」
ライ氏が香港に渡った時、所持金はわずか1ドルだった。香港に到着した翌日から手袋工場で働き始め、金をためてビジネスに乗り出し、1980年に約300のチェーン店を持つ総合アパレル企業、ジョルダーノ・インターナショナルを創業し、立志伝中の人物として注目を浴びる。当時はまだ山口県の衣料品店主だった「ユニクロ」(UNIQLO)創業者の柳井正氏が香港まで行き、ライ氏を訪ねた。その際の出会いが、ユニクロの成功モデルであるSPA(製造小売業)化に大きな影響を与えたことでも有名だ。
李鵬首相は大バカ者
ジョルダーノの事業が絶好調だったとき、天安門事件のきっかけとなった中国の学生らの民主化要求運動が起きる。学生らの運動に共鳴したライ氏は民主派学生を支援するTシャツを販売し、売上金を学生らに寄付するなど運動を支持。当時の李鵬首相を「知能指数ゼロの大バカ者」と批判する公開状を発表し、反中姿勢を鮮明にした。
「当時、中国大陸にジョルダーノの店舗が300ほどあったのですが、地方政府などに圧力をかけて、営業できないように仕向けた。このままではジョルダーノは死んでしまうと考え、それからというもの、メディアの仕事に取り組むようになった」
3年間監視
2014年以降、香港でも学生を主体とした民主化運動が展開する。2014年9月中旬から12月まで続いた「雨傘運動」だ。学生らが香港の行政長官選挙の民主化を求め、香港島中心部の主要道路を占拠し座り込んだのだ。ライ氏は雨傘運動で毎日、現場を訪れ、学生らを激励。リンゴ日報などライ氏のメディアグループは全面的に学生ら擁護の論陣を張った。しかし、運動は大規模な香港警察の攻勢で頓挫し、学生らは撤退。ライ氏は同年12月、運動に参加したことで逮捕され、ネクスト・メディア・グループの会長を辞任した。
翌年9月、筆者は香港の自宅で、ライ氏にインタビューした。自宅前で、若い男が中をうかがい、カメラを回しているのを目撃した。
ライ氏はこの男について、こう語っていた。
「もう3年になる。24時間ずっと監視している。『東方日報』の記者で、出ていけば、君たちも写真を撮られるだろう。(東方日報は)親北京のメディアであることは確かだ。香港政府支持のメディアでもある」
「北京政府からは具体的にどのように脅かされたのか。ハッキングを受けていたとも聞いている」との質問にはこう答えた。
「ハッキングはたしかにあった。私の会社のサーバーがハッキングに遭い、過去10年以上にわたるすべてのEメール情報が持って行かれた。香港の企業に、私の経営するメディアに広告を出さないよう、圧力をかけた。ほとんどの大企業が、私のメディアには広告を出さない。彼らは中国本土でビジネスをやっているからだ。(北京は)私たちの仕事をより困難なものにしようとする。自宅にモロトフ(火炎瓶)を投げ込まれたこともある。投げた人間が北京の人間なのかはわかりません。ただ、北京側の意見を支持する人間であることは間違いありません。でも、別に構わない。取り立てて抗議しようとは思わない」
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