小説家・北沢陶がお気に入りの湯飲み使えずにいる理由 ベトナムで購入した「バッチャン焼き」の不思議な魅力

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ペンネームの由来は「陶磁器」

 2023年に『をんごく』が横溝正史ミステリ&ホラー大賞、読者賞、カクヨム賞の3冠を獲得しデビューした、小説家の北沢陶さん。作家にとっての要である筆名を考える際、目に入ったのは思い出深い陶磁器で……。

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 私のペンネーム「北沢陶」の「陶」は、「陶磁器」に由来している。

 横溝正史ミステリ&ホラー大賞受賞当時のペンネームを変えてはどうかと編集部から勧められ、名前選びに悩んでいたとき、ふとデスクに飾っている陶磁器が目に入った。「『陶』はどうだろう」と思い立ち、結果それに決まったことになる。

 しかし正直に言うと、陶磁器について詳しいわけではない。高価な作品を買う趣味も、そんなお金もない。ただ陶器市で気に入ったものを買ったり、家族や親戚からもらったりする。厳選しているのでコレクションというほどの数はないのだが、それだけに「これは福井で買ったものだな」「これは家族からもらったもので、作家さんの名前も覚えているぞ」と見るたびにひとつひとつ思い出がよみがえってくる。

バッチャン焼きの丈夫さに感心

 中でも印象深いのが、バッチャン焼きである。

 バッチャン焼きはベトナムの伝統的な陶器で、バッチャン村で作られているのでそう呼ばれている。家族とハノイを旅行したとき、ツアーでバッチャン村を訪れた。村にはいくつも工場があり、そのうちのひとつを見学した。バッチャン焼きには花や魚などの絵柄がついているのだが、工場内では女性たちが鮮やかな手つきでそれらの模様を描いていた。恐らく同じ模様を何回も描いてきたのだろうが、最近は伝統的なものに加え、新しいデザインのものも作られているらしい。

 案内役の男性は製造工程を説明しつつ、「人気の品です」と鍋敷きを持ち出してきて、「頑丈ですよ」と力を込めて拳でたたくのでこちらがハラハラしてしまった。しかし頑丈だと言うだけあって割れることはない。ちなみに鍋敷きはその後購入し、5年以上使っているが、バッチャン焼きの鍋敷き部分より先に取っ手である植物の皮のほうがちぎれてしまった。それでも鍋敷きとしては機能しているので使用しているのだが、そのたびにバッチャン焼きの丈夫さに感心する。

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