大腸がんで「余命1年」と宣告され、不倫相手は逃げた…60歳夫が今になって知った彼女が消えた意外な真相

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「パパの彼女に会いたい」

 学生時代の恋愛関係が、就職と同時になぜあんなに簡単に壊れたのか。それについてもふたりは語り合った。誤解もあったし思い込みもあった。それでも今、こうして一緒にいられることが楽しくてうれしくてたまらなかった。

「娘にはときどき外で会っていました。望み通りの大学に受かったと聞いたときはうれしかった。お祝いに家に帰ってあげたらと季衣に言われましたが、やはり敷居が高い。すると娘が『パパの彼女に会いたい』と言いだしたんですよ。それはどうかと思ったんですが、どうしても会いたいと。季衣も大丈夫かなと言っていましたが、3人で食事に行きました」

 季衣さんは控えめにしていたが、娘からはさまざまな質問が飛んだ。そのひとつひとつに季衣さんは真摯に答えた。「パパを愛してるの?」と聞かれたとき、季衣さんは「実は自然消滅してしまったときから忘れたことはない」とはっきり言った。だったらどうして探し出して一緒にならなかったのと娘は言った。

「当時はSNSもなかった。それに会えないのは縁がないからだと思うしかなかったのと季衣は目を潤ませました。思い返せば、僕も心の中でずっと季衣のことを思っていたのかもしれない。大事な宝箱に入れて封印していたような……。今は楽しいのと娘に聞かれ、『悪いけど、パパは今、きみと同じ年齢くらいの感覚だな』と返すと、娘は大笑いしていました。あの子は子どものころから三島由紀夫や谷崎潤一郎を読むような早熟な子だったから、人の機微に敏い。しょうがない、ふたりのことは見守っていくよと娘に言われて、僕らは照れるしかありませんでした」

 帰宅後、季衣さんは「魅力的な子ね」と感嘆していた。

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