大腸がんで「余命1年」と宣告され、不倫相手は逃げた…60歳夫が今になって知った彼女が消えた意外な真相

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“元カノ”との再会で…

 娘は結局、公立校に入ったが、入学後から目指す大学に向かって努力し始めた。ちょうどそのころ学生時代の集まりがあり、祐揮さんは久しぶりに行き、卒業以来初めて、当時つきあっていた季衣さんに再会した。

「卒業と同時に自然消滅したので、会いづらかったんですよ。だけど顔を見たら、あの頃がわーっと蘇ってきて、本当にうれしかった。彼女のほうも同じだったようです。話してみたら、あのころと会話のリズムが変わってない。うれしかったですね」

 それは恋心が蘇ったわけではなかった。恋は脱けて、熟成した情が噴出した感じだったと彼は言う。だが、そこからまた恋が始まってしまうのが男女の興味深いところだ。最初は懐かしさだけで、その後、今のお互いを認め合うことになり、過去の恋心に今の気持ちが上乗せされ、濃密な関係になっていく。

「40代後半、お互いに失ったものと得たものとを比べるような時期だったのかもしれません。彼女も結婚していたけど、ひとりっ子の息子はもう大学を卒業して遠方にいるとかで、『夫はもうただの同居人よ』と笑っていました。でも彼女は幸せだったんだと思う。きれいな笑顔だったから。僕のほうは悩みと迷いにまみれていましたが『今のほうが素敵よ』と季衣に言われて肩の荷が下りたような気もしました」

 そして50歳になったとき、季衣さんは突然、「私、離婚しちゃった」と笑った。慌てた祐揮さんだが、「そう来たか、と僕も腹をくくりました」。

何もいわなかった妻

 家を出てひとりになりたい、生活費は送る、子どもたちにはいつでも会うと妻に告げた。妻は何も言わなかった。トランクひとつで出て行こうとしたとき、娘が「パパ、行かないで。私たちを捨てるの?」と絶叫した。「パパはずっときみたちのパパだよ。心から愛してるから、いつでも連絡して」と一言告げ、娘の「パパ!」という声を振り切った。

「娘も息子も多感な時期だったから、それだけは申し訳ないと思っていました。季衣が用意してくれた部屋に逃げ込むようにして暮らし始めたけど、子どもたちとは連絡を欠かさなかった。息子からは返信はありませんでした。彼は母親の気持ちを慮っていたんでしょう」

 季衣さんも仕事をしていたので、智絵美さんと違って、家の中がいつもきちんと片付いているわけではなかったが、祐揮さんもそんなことはまったく気にならなかった。

「むしろ、そんなことよりふたりで夜遅くまでしゃべったり、映画を観に行ったりして、学生時代のように気楽に過ごせるのが楽しくて 。若かったころの気持ちが蘇りました。妻とは下の子が産まれてからほとんどセックスレスでしたが、季衣とは毎晩のように……。若返っちゃったんですよね(笑)」

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