「日本人には果物が足りない」 がん罹患率と死亡率が低下…ダイエットにも最適な理由とは

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地中海式ダイエットで…

 さらに、果物は精神状態にも良い影響をもたらします。オーストラリアの研究では、中等度から重度のうつ病患者を対象に、野菜や果物が多い食事メニューとして知られている地中海式ダイエット療法を受けた群と、一般的な食事療法を受けた群を比較した結果、前者はグループの32%で症状の改善が見られたものの、後者では8%にとどまりました。

 では、なぜ果物はこうした健康増進効果をもたらすのでしょうか。果物に多く含まれるものとしては、ビタミン、ミネラル、食物繊維、ポリフェノールなどが挙げられます。こうした栄養素が個々の病気や症状に有効なのだと考えられますが、一方で、「果物を食べていることそのもの」が健康増進効果をもたらしているとも考えられます。

 野菜でいうと、人参などに豊富に含まれているβカロテンを多く摂取している人は胃がんなどのがんになりにくいという疫学調査が存在します。ならばと、βカロテンのサプリメントを摂取すればがん予防に効果的かといえば、かえって有害であるケースが明らかになっています。この事態をどう理解すればいいのでしょうか。

 βカロテンの摂取量は、つまりは「野菜を多く食べていること」のひとつのメルクマール(指標)だったと捉えることができます。そう考えると、がん予防に貢献したのは「βカロテンの摂取量」ではなく、それが示唆するその人の「野菜そのものの摂取量」だったといえる。要は、βカロテンに限らず、野菜に豊富に含まれる栄養をバランスよく摂取したことががん予防の結果をもたらしたと考えられるのです。

とにかくたくさん食べるべき

 果物も同じです。コラーゲンの合成には、アセロラやイチゴに多く含まれるビタミンCが必須であるため、ビタミンCが不足するとコラーゲンでできている血管は脆くなるといった具合に、果物に含まれる個々の栄養素と健康との「因果関係」は分かっています。しかし、それよりも何よりも、果物を多く食べることで、果物が豊富に含むビタミンやミネラルなどを種類を偏らせることなく、バランスよく摂取できること自体が、健康をもたらしてくれると考えられるのです。

 したがって、目標摂取量の半分にも満たない果物をとにかくたくさん食べることが重要なのです。野菜は「もっと食べろ」とは言われるものの「食べ過ぎだ」と叱られることはありません。それなのに果物は、太る、甘いから体に悪いといった誤解のせいで「もっと食べろ」とは言われない……。

“果物差別”でせっかくの健康増進の機会を逸してしまっては、こんな不幸なことはありません。

田中敬一(たなかけいいち)
つくば生命科学研究所所長・農学博士。1949年生まれ。弘前大学大学院農学研究科修士課程修了。元文部科学省科学技術・学術審議会専門委員。園芸学会功績賞受賞、科学技術庁長官賞研究功績者表彰。『果物をまいにち食べて健康になる』(共著、キクロス出版)などの著作がある。

週刊新潮 2024年3月21日号掲載

特別読物「『太る』『血糖値が上がる』は誤解  日本人には『果物』が足りない」より

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