「大正製薬」が元幹部社員を訴えた前代未聞の裁判 訴訟記録から浮かび上がる「転職の意外なリスク」とは

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 いまやキャリア形成をはかる上で珍しくなくなった「転職」だが、時に思いもよらぬ“落とし穴”が待ち受けているケースもある。現在、東京地裁で進行中の前代未聞の裁判は、そんな「転職にひそむ意外なリスク」を知らしめていると評判だ。実際、裁判資料を紐解くと、会社員なら誰の身に起きても不思議ではない“驚きの争点”が浮かび上がってきた。

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 大手総合医薬品メーカーの大正製薬が、同社元社員のA氏に対し、550万円の損害賠償を求める訴えを起こしたのは1月5日のこと。全国紙司法記者が解説する。

「被告のA氏は2022年11月、同業大手のロート製薬に転職しており、その経歴から最初は“企業機密漏洩”案件かと思ったら、まったく違っていた。近年、企業が元社員を訴えるケースは増えていますが、今回のような争点は初めて聞くもので、一部で話題となっています」

 デイリー新潮編集部が裁判記録を確認すると、大正製薬はA氏に損害賠償を求めた理由として〈(A氏が)原告を誹謗中傷する等の発言を複数の原告従業員に対して複数回していることが判明した〉(訴状より=以下、〈 〉内はすべて訴状から抜粋)ことを挙げる。

 訴状には、その誹謗中傷の内容も具体的に記されていて、いずれも従業員たちから同社がヒアリングした結果に基づくものという。発言の舞台は2つあり、一つはA氏が監督を務める“草野球チーム”内でのもので、時期はA氏が退職する前後の22年8月から12月にかけてとされる。

「18時にはフロアがガラガラ」

 訴状に記されたA氏の発言は以下のようなものだ。

〈大正は社員を大事にしない会社だぞ(中略)お前も、こんな会社考えた方がいいよ〉

〈大正は新商品がなかなか売れない。商品を育成するための我慢ができない〉

〈転職活動をして視野が広がった。一箇所にとどまるのが正解じゃないぞ。(中略)お前、ロートに来いよ。生涯年収で考えたらロートの方がいいぞ〉

〈ロートに行って驚いた。18時にはみんな退勤していて、フロアがガラガラ。大正で想像できる? ロートは業績がいいと一定の利益を確保して後は社員に還元している。今回のボーナス額にも驚いた。大正では考えられないだろ〉

 ちなみに、この野球チームは主に大正製薬社員で構成され、他社に所属するメンバーはA氏のほか、別の大手製薬会社社員の2名という。

 さらに昨年6月に開かれた業界団体の集まりの場でも、A氏は隣に座った大正製薬の社員に対し、〈早期退職を募っていると聞いたが、たくさん辞めるんじゃないか。実際に多くの人から相談を受けている〉や〈大正さんは、朝早くから夜遅くまでフロアにたくさんの人が残って働いているのとか、働き方、考えた方がいいよ〉などと言ったとされる。

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