「大正製薬」が元幹部社員を訴えた前代未聞の裁判 訴訟記録から浮かび上がる「転職の意外なリスク」とは

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「著しく歪曲している」

 これらの発言について、大正製薬側は〈原告の社会的評価を低下させるものである〉とした上で、本来は秘匿されるべき経営状況などをA氏が元後輩らに〈平然と言いふらした〉行為は〈かなり悪質〉だと指摘。

 そして〈被告の各発言は民法709条の不法行為を構成する名誉毀損又は侮辱に該当するものであり、原告は相当な無形の損害を被った。その損害額は(中略)あわせて500万円をくだらない〉と書く。提訴に踏み切ったのも〈会社の名誉や被告の引き抜きから従業員を守るため〉だとした。

 今回、被告となったA氏の年齢は50代といい、これまでマーケティング本部長や営業事務本部長などの要職を歴任した「エリート社員」の一人とされる。

 そのA氏は2月に提出した答弁書で“古巣”の言い分に猛反論。訴状にある各発言について〈話した内容を勝手に付加し、また、著しく歪曲している〉(答弁書より=以下、〈 〉内は答弁書より抜粋)として、たとえば野球チーム内での発言の一つについて〈ひとつの会社で勤め上げることのほかに、転職をするということも自分の人生設計の選択肢として考えるとよいと思う、ということは言った〉と説明する。

困惑する代理人弁護士

 そしてA氏は各発言について〈1対1の会話中の発言〉であり、〈原告の社会的評価が低下する余地はない〉と主張。続けて〈被告の私語を勝手に歪曲したり捏造したりして名誉毀損だと騒ぎ立てているだけであり、事実的法律的根拠は全くないと言わざるを得ない〉と記し、〈速やかな請求の棄却を心より求めるものである〉との言葉で答弁書を結んでいる。

 両者の主張は真っ向から対立しており、トラブルの真相は容易に第三者には窺えない。大正製薬側の代理人弁護士に取材を申し込んだが、

「係争中のためコメントできない」

 と回答。一方、A氏側の代理人弁護士は、

「そもそも名誉毀損に当たるような話ではなく、なぜ訴訟を起こしたのかもよく分からない」

 と困惑を隠さなかった。辞めた後でも、古巣に対する発言には気を付けるべき……という教訓か。

デイリー新潮編集部

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