「現代人は12月と1月に最も死んでいる」「日本人の死亡原因の10%が『低温』!?」 命を守る室温対策、何度以上に設定すべき?

ドクター新潮 ライフ

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断熱にお金をかけるのは当たり前

 すでに子どもは独立し、夫婦だけで一軒家に暮らしている高齢の方も少なくないはずです。かつて子どもたちが使っていた2階の部屋はほとんど使わなくなった。でも、夫婦の寝室は2階にある。そういうケースでは、寝室を1階に移し、1階のスペースだけ断熱工事をすると、数百万円、安い場合では100万円程度で済ませることも可能です。

 もちろん数百万円も決して安い金額ではありません。しかし、「家の工事」というと住みやすくして気分が変わるメリットをイメージするかもしれませんが、断熱工事は「気分」の問題ではなく「健康」の問題なのです。病気になれば死ぬ前に手当てをするのは当たり前です。同様に、低温は命に関わるほど健康を阻害する要因なのですから、それに対する手当てをするのも、「高い」「安い」の問題ではなく当たり前のことなのではないかと私は考えます。

ファンヒーターを窓向きに

 それでも断熱にまとまったお金は出せないという人には、より手頃に、DIYで部分的な断熱をする方法もあります。

 例えば、家の中で最も低温の箇所のひとつは、ドアの隙間から外気が入り込んでくる玄関です。玄関から廊下を通ってリビングなどに冷気が回り、家全体が低温になってしまう。これへの対策のひとつは、玄関とリビングなどをつなぐ廊下にカーテンを引き、外気の侵入をそこで一定程度遮断することです。

 また、大きな窓がある部屋では、そこから冷たい外気が入ってきて部屋の中を低温にしてしまうことがあるので、ファンヒーターなどを、部屋の中に向けてではなく窓に向かって置き、外気が中に入ってくるのを押し戻すのもひとつの手でしょう。

 リビングで過ごしやすくするために電気カーペットを敷いている家庭もあると思います。より暖かさを感じたいと考えて、電気カーペットの上に別のふわふわのカーペットや毛布を敷いている人もいるのではないでしょうか。しかし、これは逆効果です。電気カーペットの熱を上からふさぎ、床下に押し戻してしまっているからです。もし毛布などを敷くなら電気カーペットの下です。そうすることで、床下に熱が逃げていくのを防ぐことができます。

命を削る敵

 そんな対策は必要がない。豊かな四季の自然に身を委ねることこそが、人間にとって文字通り自然な状態なのであり、冬は家の中も含めて寒いのが当たり前なのだ――そう主張する人がいます。しかし、低温を含めた自然環境は本当に人間の味方なのでしょうか。冬の死亡者数が多いことから分かるように、そうとは言い切れないはずです。自然は時に味方としてではなく、命を削る敵として立ちはだかってくる。そうであれば、低温対策をすることのほうが自然なことだと私は思うのです。

岩前 篤(いわまえあつし)
近畿大学建築学部教授。1961年生まれ。神戸大学工学部建築系環境計画学科卒業。同大学院工学研究科修了。大手ハウスメーカーに入社し、住宅の断熱、気密、防露に関する研究に携わる。95年、博士号取得(神戸大学)。2003年に退社、近畿大学理工学部建築学科助教授に就任し、09年に教授、11年には創設された建築学部の学部長に。建築物、特に健康・快適でエネルギー性能に優れた住宅のあり方の研究を続けている。

週刊新潮 2024年1月4・11日号掲載

特別読物「ヒートショックより危険 『家の寒さ』が命を縮める」より

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