「現代人は12月と1月に最も死んでいる」「日本人の死亡原因の10%が『低温』!?」 命を守る室温対策、何度以上に設定すべき?

ドクター新潮 ライフ

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低温の死亡リスクは高温の30倍

「冬」と「死」の因果関係、そのメカニズムについてはまだはっきりしないところもありますが、低温によって体力が奪われ、免疫機能が正常に働かなくなることでさまざまな健康被害がもたらされるのだと推察されます。いずれにしても、現に起きている逆転現象から考えると、低温の環境を避ければ健康リスクを減らせるのは間違いないといえるでしょう。

 実際、2015年に英国の医学系学術誌で発表された調査結果では、日本人の死亡者の約10%、およそ12万人が「低温」の影響で亡くなったと記されています。

 一方、夏の「高温」による死亡者が占める割合は0.3%に過ぎません。低温と高温を比べると、実に約30倍も低温の死亡リスクは高いのです。近年、熱中症のリスクが注目されていますが、熱中症で病院に運ばれた人の9割以上はその日のうちに帰宅しています。こと「命」に関していうと、やはり夏の暑さより冬の寒さが圧倒的に危険といえるのです。

「寒さ」と「低温」の違い

 いかに寒さが命に関わる大問題であるかお分かりいただけたかと思いますが、ここでひとつ誤解しないでいただきたいことがあります。冬の寒さが問題だというと、どうしても、「寒いところから急に暖かい場所に移る時のヒートショックに気を付ければいいんでしょ」と思う人が少なくありませんが、「温度差」以前に「低温そのもの」が危険なのです。私の父親が典型例で、「うちは大丈夫。家のどこに行っても10度くらいで温度差はないから」と言い、家の寒さを気にしようとしませんでした。そうではなく、家の中が10度と寒い時点で健康を害する恐れがあるのです。

 さらに、ここまで「寒さ=低温」として扱ってきましたが、厳密に言えば命をむしばむ危険性が高いのは体感的な「寒さ」ではなく「低温」という状態です。寒さを感じれば暖房器具を「弱」から「強」にしたり、寒い部屋から暖かいリビングに移るなどして何らかの対策を取るでしょうから、健康を害するほどの寒さを延々と感じ続けることは実はあまりありません。一方の低温は、それこそ我慢できないほどの寒さを感じるわけではなくても、知らず知らずのうちに私たちの健康を損なっていくため危険なのです。

15もの症状が改善

 では、冬の室内の低温はどれほど健康を阻害するのでしょうか。逆に言えば、断熱性のすぐれた家に暮らすことでどれだけ健康は改善するのか。われわれが高断熱高気密住宅に引っ越した約2万4千人を対象に調査を行ったところ、驚くべき結果が出ました。引っ越し後、15もの症状が明らかに改善したのです。具体的には、想像に難(かた)くない手足の冷え、せきやのどの痛みだけではなく、肌のかゆみやアトピー性皮膚炎、花粉症といった症状にまで改善が見られました。

 アトピー性皮膚炎が改善したのは、室内の温度が上がったことで身に着ける衣類の量が減ったことに起因しているものと思われます。家の中が低温であれば、当然、服を着込むことになります。この重ね着が人間に与えるストレスは想像以上のもので、高断熱高気密住宅に住むことによって、化学繊維やウールといった肌への刺激が強い衣類を多く着なくて済み、肌に良い影響をもたらしたと考えられるのです。

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