【甲府夫婦放火殺人】特定少年の被告に死刑求刑「ザ・優等生」「典型的な陰キャ」同級生が証言する事件前の異変

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 2021年10月に起きた、無辜の夫婦が犠牲となり、10代の姉妹が辛くも逃げ延びた「甲府夫婦放火殺人事件」。12月11日に甲府地裁で開かれた公判で検察側は、殺人と現住建造物等放火などの罪に問われた遠藤裕喜被告(21)に死刑を求刑した。被告は事件当時19歳だったが、全国で初めて改正少年法の特定少年として、検察は実名を公表。彼が重大事件を引き起こすに至るまでの全行程に迫る。

(週刊新潮 2021年10月28日号掲載 特集「『甲府夫婦殺人事件』ネットにあふれる偽情報 『19歳生徒会長』闇の奥の“素顔”」の記事をもとに再構成しました。肩書などは掲載当時のものです)

「感染予防を心がけてほしい」とコメント

 手元に新聞記事の切り抜きがある。去る10月12日、山梨県の地元紙「山梨日日新聞」に掲載された記事で、見出しは、

〈消毒スプレーに「ヨゲンノトリ」甲府・中央高生が作製〉

 特に目を引くわけではないこの記事は、実は、今回の“重大事件”の背景を読み解く上で示唆に富んだ内容になっている。

〈甲府・中央高(古屋はるみ校長)定時制の生徒が新型コロナウイルスの収束を願い、「ヨゲンノトリ」をモチーフにした消毒スプレーを作製した〉

〈7、8の両日に開いた学園祭の催しとして企画。生徒は疫病退散を願って消毒スプレーのボトルに「ヨゲンノトリ」のシールを貼り、「朝夕にこのスプレーを使って難を逃れてほしい」と記したメッセージカードとともに袋詰めした〉

 記事に掲載された消毒スプレーの写真には、

〈中央高校定時制生徒会〉

 の文字が見える。また、その生徒会のメンバーと思しき生徒たちが袋詰めするところを捉えた写真も載っている。

 その写真の一番目立つ位置に写っており、

〈手指消毒は手軽にできる感染対策。スプレーを携帯してもらい、感染予防を心掛けてほしい〉

 と記事中でコメントしている生徒会長の遠藤裕喜(19)はしかし、自分の写真と談話が載ったこの記事を目にしていない可能性が高い。なぜなら、この記事が掲載された新聞がまさに家々に配達されようとしていた12日未明、遠藤は甲府市蓬沢にある2階建ての一軒家にいたのだから――。

爆発音とともに火の手が

 この家で暮らしていたのは井上盛司さん(55)、章恵さん(50)夫妻と、高校3年の長女、中学3年の次女の4人である。長女が通っていたのは遠藤と同じ中央高校の定時制で、定時制生徒会の役員として会長である遠藤を支えてもいた。後に取調べで遠藤が供述したところによると、そんな長女に対して、好意を寄せていたという。

 井上さん宅の近隣住民が振り返る。

「“バン、バン”と音がして、火事が起こった直後に目が覚めました。プロパンガスが爆発したかのような音でしたね。時間は12日の午前4時前。瞬く間に火の手が広がって、すぐに2階まで燃え上がりました。燃え上がったと思ったら2階の屋根が崩れ落ちてしまって……。何台もの消防車が集まり、地域の消防団の方と一緒に必死に消火活動をしていました」

 井上さん宅は全焼。焼け跡から2人の遺体が発見され、後に井上さん夫妻と確認された。

「2人の死因は刃物で刺されたことによる失血死。刺されて即死したのか、しばらく生きていたのかは分かっていませんが、発見されたご遺体はいわゆる“ボクサー型”ではありませんでした。生きている状態で火災に遭って亡くなるとご遺体はボクサーがファイティングポーズを取るような恰好となることが多いのですが、今回はそうではなかった」(捜査関係者)

 井上さん宅に侵入した男は夫婦を複数回刺して殺した後、2階に上がろうとしたと見られており、

「そこで下の様子を見にきた次女と鉢合わせ。次女は、“男を見て逃げようとしたら後ろからガツンという衝撃があった”という話をしており、頭部に挫裂創を負っています」

 と、全国紙社会部記者。

「次女は追いかけてくる男から何とか逃れ、長女と一緒に2階のベランダから避難しました。長女は午前3時45分頃に“泥棒に入られた”と110番。井上さん宅から火が出たのはその直後のことでした」

 逃げるのが一歩遅れていたら、長女と次女も猛火にまかれて命を失っていたかもしれない。ちなみに、焼け跡からは灯油などの油を入れる缶が発見されたとの報道もある。

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