「高2の頃に万引きをしてから人生が悪い方向に…」 立川「ホテル殺傷事件」公判で“不規則発言”を繰り返す「元少年」が明かしていた意外な“過去の供述”

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部屋のドアに“血のついた包丁”が刺さっていた

 凄惨な現場の状況は、公判に証人出廷した警察官が証言している。Bさんからの110番通報を受け現場に急行していた。

「エレベーターで5階に向かい、到着後、廊下に血が飛び散っており、部屋の前には20歳代と思しき男性が倒れているのを発見した。男性は呼びかけに応じないほど意識が混濁しており、腹部から出血し、腸も出ていた。男性が倒れている周囲の部屋のドアに血のついた包丁が刺さっているのを確認した。従業員から借りた鍵で解錠し、私と別の巡査部長の2人で部屋に入った。ドアを開けると床面や壁面に血が飛び散っていた。中にいるという女性に声をかけたが応答がない。壁沿いを歩き部屋の中に入ったが、男の姿はなかった。ベッドと壁の隙間に、上半身裸、全身多数の刺し傷があり、腸が出ていて仰向けで倒れている女性を発見した。意識はありませんでした」(現場に急行した警察官の証言)

 こうした経緯からか、被告は事件当時「心神喪失で無罪」と主張する弁護人に対して、検察官は被告に完全責任能力があったと主張している。論告でも「事前に包丁やiPodを用意し、自分で店に予約の電話を入れ、Aさんを指名している。当日は予約した通り店舗で料金を払い、ホテルの料金も支払ったうえ、入室後に店舗に電話を入れ、従業員と話をして、盗撮の準備をしていた。一貫性ある目的にあった言動、行為の意味や違法性を認識した上での言動をとっている」などとして完全責任能力があったと訴えた。

 Bさんに対する殺人未遂については殺意の有無も争われているが、検察官は「凶器は高度の殺傷能力を有し、それを被告は十分認識していた。生命に関わる腹部や首を、そうだと認識した上で攻撃している。被害者Bさんは大量出血により出血性ショックを起こしており、適切な処置が施されなければ死んでいた」と被告が強い殺意を持って犯行に及んだと論告で主張している。

起訴前にはなかった「不規則発言」

 責任能力が争点のひとつとなっているこの裁判で注目されたのは、被告の「不規則発言」だった。初公判の人定質問から自身の名前を答えず、「ウルトラの……、今選挙の……」など話し始め、罪状認否でも「バイオハザード……なんか、ハリウッド、なんか……みんな死んでる世界で南海トラフ地震に……」など、質問に答えず意味不明な発言を続けていた。検察官冒頭陳述の際も、検察官の説明に声をかぶせるかのように不規則発言を繰り返し、ついには退廷させられる事態に至った。以降の公判でも時折、不規則発言が飛び出し、裁判長から退廷を命じられることが複数回あった。

 だが、こうした不規則発言は、起訴以前にはなかったようだ。

 実は、被告は逮捕当時19歳の少年だったため、起訴前に家裁で審判を受けている。この当時の発言、そして逮捕当時の取り調べでの発言が、11月21日の被告人質問で検察官から明らかにされた。

検察官:「逮捕当日の令和3年6月2日、立川署の取り調べで事件の経緯について話をしていませんか?」

被告:「……」

検察官:「あなたも当時“早く裁判を受けたい”と言っていたと思います。事件を起こした経緯についても“私自身、高校2年の頃に万引きをしてから人生が悪い方向に向かっていった”と言ってませんか?」

被告:「ノアさんの関係についてね、あ~、その人……」

 不規則発言のなかにも、時折質問に答える気配が見られる被告は、検察官の質問に対し、Aさんの“源氏名”を口にした。そして、検察官が質問を続けると、これまで「事件前に面識はない」とされてきた被告と被害者を結ぶ“点と線”が浮かび上がってきたのだ。

後編【「16歳の時に風俗に行かなければ…」 立川「ホテル殺傷事件」公判で「元少年」が動揺した「面識がない」はずの“被害女性”との接点】へつづく

高橋ユキ(たかはし・ゆき)
ノンフィクションライター。福岡県出身。2006年『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』でデビュー。裁判傍聴を中心に事件記事を執筆。著書に『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』『木嶋佳苗劇場』(共著)、『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』、『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』など。

デイリー新潮編集部

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