連続幼女誘拐殺人「宮崎勤」は独居房で幼児の写真集を眺めていた 元受刑者が見た“確定死刑囚”の知られざる日常

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連続幼女誘拐殺人事件から35年

 1980年代末、日本中を震撼させた連続幼女誘拐殺人事件。その犯人の宮崎勤が逮捕されたのは1989年7月23日のことだった。

 彼の獄中での様子の貴重な証言をしてくれたのが、獄中で宮崎をはじめとする多くの死刑囚や犯罪者を間近で見てきたという、元受刑者の飲食業・大岩正一氏(66、仮名)。大岩氏がノンフィクションライターの青柳雄介氏に語った「塀の中の重大犯罪者たち」とは―――。(2023年11月23日記事をもとに再構成しました)

裁判官に「バカじゃないの、あんた」

 大岩氏は1996年、知人のブラジル人が強盗致傷事件を計画しているのを知り、「日本の警察は優秀だから、そんなことをしたらすぐ捕まるよ」と踏みとどまるように注意したという。そのことが、事件を事前に把握していたとされ、強盗致傷の共同正犯とみなされてしまう。犯人のブラジル人に名前を出されたこともあり、同年11月29日に逮捕。納得がいかない大岩氏は裁判で争ったものの、一審で求刑8年に対し懲役8年の実刑判決。検察官の求刑と同じ判決結果を俗に「ニギリ判決」というが、それになってしまった。初犯にしてはかなり厳しい判決だが、それにはこんなわけがあった。一審の法廷で審議の途中、裁判官が「反省していますか?」と大岩氏に尋ねた。大岩さんは、それにこう答えてしまったのだ。

「やってもいないことをどう反省するんですか。反省のしようがないじゃないですか。反省するもしないも、やっていないことをなんで反省しないといけないんですか。バカじゃないの、あんた」

 裁判長は冷徹に、

「侮辱罪で追訴しますよ」

 と言い放った。このやり取りが、反省の色が見えないとされてしまい厳しい判決になってしまったのだ。大岩さんが言う。

「ぼくと同じように、やってもいないことは反省できず、それで実刑になってしまう人って、案外少なくないんだと思いますよ。今年再審が始まったばかりの袴田巖さんもそうだけど。ぼくにはそれが、実感として理解できます」(大岩氏)

 控訴し、移送された先が東京拘置所だった。1998年6月30日のことである。

「この日はロス疑惑の三浦和義被告に対し、東京高裁が一審の有罪判決を破棄自判して逆転無罪判決を出し、釈放された日でした。上空をヘリコプターが旋回し大騒ぎになっていたのをよく憶えています」(大岩氏)

 その後、未決囚として東京拘置所で過ごした2年の間に、大岩氏は最高裁で懲役6年が確定。服役することになった。通常、懲役刑が確定すると、各刑務所に送られ服役囚として過ごすことになる。だが、刑が確定した後も拘置所に残り、「掃夫」や「衛生夫」となったり、あるいは、炊場で食事を作る担当になり、そこで働くことで服役する者もいる。拘置所に収容されている未決囚には刑務作業がないからだ。大岩氏は東京拘置所に残って服役し、最初は職員用の食事を作り、後に未決囚の食事を作っていたという。

「あの袴田さんだ」

 大岩氏は当初、8人が収容される新北舎1階の雑居房にいた。その多くは、窃盗や覚せい剤事件の未決囚だった。みな確信犯で、彼らにしてみれば拘置所へ遊びに来ているような感覚だったという。一方の大岩氏は、上訴して無実を訴え闘っている大事なとき。雑居房では騒がしくて上告趣意書や弁護士への手紙などが落ち着いて書けない。そこでわざと規則違反を犯し、懲罰として独居房へ移った。そこが新北舎3階だった。当時、東京拘置所は南舎と北舎、新舎、新北舎の四つの舎房があった。オウム真理教事件の麻原彰晃(松本智津夫)は南舎にいたという。大岩氏が新北舎3階へ移ると、一番奥の角部屋「一房」に収容されていたのは、今年10月に再審が始まった袴田巖さんだった。そのはす向かいの房に入った大岩氏は、すぐに「あの袴田さんだ」とわかったという。

「袴田さんは今よりも太っていて顔は蒼白、まるで蝋人形のようだったのが印象に残っています。狭い独居房の中を毎日何時間も歩き回っていました。足は上らず引きずるような歩き方で、歩幅はとても小さかった。生気がまったく感じられず、魂を抜かれてしまったかのようにただ生かされているだけのように見えました。3年間同じフロアにいましたが、話したことは一度もありません。ただ袴田さんは、夜中に係長クラスの職員を呼んで自分の房で話し込んでいることがよくありました。私は自ら望んで独居房に入りましたが、それでも24時間一人きりでいると精神的にかなり疲弊してしまう。ふと気がつくと、房を這うゴキブリや蜘蛛にごく自然に話しかけていたほどです。自分が壊れてしまいそうになりました。48年間もたった一人で拘禁され続けた袴田さんの苦悩は想像すらできません」(大岩氏)

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