「インスタ中毒がうつのもとになる」 アメリカの州が「スマホ脳」を問題視して裁判を起こした

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 10月24日、カリフォルニア州などアメリカの42の州や区が巨大IT企業のメタを相手取って訴えを起こした。

 メタの運営するフェイスブックやインスタグラムの中毒性を問題視し、「利益を得るためにテクノロジーを駆使し、子供たちのメンタルにダメージを与えている」――というのが訴えた側の主張である。

 当然、メタの側はこれに対して、適切な対応を取っているといった反論をしているが、どの国でもスマホ中毒が深刻な問題となっていることを改めて示したといえる。

 裁判が進めば、メタの対応の妥当性の他、スマホ中毒がメンタルに与える悪影響の有無も争点となるだろう。

 もっとも、多くの人の実感としては「何の影響もないとは思えない」というものではないだろうか。そもそも20年ほど前までは日常生活に入り込んでいなかったツールから目が離せなくなっているのだ。しかもそこに運営側の巧みな戦略が存在するのは間違いない。

 スマホに人生が支配されることに警鐘を鳴らしたベストセラー『スマホ脳』(アンデシュ・ハンセン著、久山葉子訳)が示している驚愕(きょうがく)の事実を見てみよう(以下、引用はすべて同書より)。

脳科学者たちのテクニック

 SNSにおいては、「いいね」などのリアクションが発信側の承認欲求を満たしてくれるというのは常識だ。ただし、そのリアクションにもしかけがあることをどれだけの人が意識しているだろうか。

 ハンセン氏によれば、SNSを運営する側は人間の脳の「報酬システム」を巧みに利用している。ごく簡単に言ってしまえば、脳は「新しい情報」を常に欲していて、それが提供されるとドーパミンを産み出すという性質を持っている点を十分に活用している、ということだ。

「フェイスブック、インスタグラムやスナップチャットがスマホを手に取らせ、何か大事な更新がないか、『いいね』がついていないか確かめたいという欲求を起こさせる。その上、報酬システムがいちばん強く煽られている最中に、デジタルな承認欲求を満たしてくれるのだ。

 あなたの休暇の写真に『いいね』がつくのは、実は、誰かが『親指を立てたマーク』を押した瞬間ではないのだ。

 フェイスブックやインスタグラムは、親指マークやハートマークがつくのを保留することがある。そうやって、私たちの報酬系が最高潮に煽られる瞬間を待つのだ。刺激を少しずつ分散することで、デジタルなごほうびへの期待値を最大限にもできる。

 SNSの開発者は、人間の報酬システムを詳しく研究し、脳が不確かな結果を偏愛していることや、どのくらいの頻度が効果的なのかを、ちゃんとわかっている。(略)

 このような企業の多くは、行動科学や脳科学の専門家を雇っている。そのアプリが極力効果的に脳の報酬システムを直撃し、最大限の依存性を実現するためにだ。

 金儲けという意味で言えば、私たちの脳のハッキングに成功したのは間違いない」

ジョブズは知っていた

 もちろんこうした「ハッキング」は企業努力のたまものだということも可能だろう。しかしながら、そこにまったく後ろめたさが無かったかといえば怪しいところがある。ハンセン氏はメタではなく、アップル社やマイクロソフト社のトップらのダブルスダンダード的な姿勢を指摘している。

「スウェーデンでは2~3歳の子供のうち、3人に1人が毎日タブレットを使っている。まだろくに喋ることもできない年齢の子供がだ。

 一方で、スティーブ・ジョブズの10代の子供は、iPadを使ってよい時間を厳しく制限されていた。ジョブズは皆の先を行っていたのだ。テクノロジーの開発だけでなく、それが私たちに与える影響においても。

 絶対的な影響力を持つIT企業のトップたち。

 その中でスティーブ・ジョブズが極端な例だったわけではない。ビル・ゲイツは子供が14歳になるまでスマホは持たせなかったと話す」

スマホは危険因子になる

 メンタルに与える影響はどう考えればいいのだろうか。ハンセン氏は、極端にスマホを利用することは、ストレスや不安を引き起こし、睡眠障害のもとになると説く。世界各国でこの問題は研究対象となっている。

「サウジアラビアの研究者が1000人以上を対象に行った調査では、スマホ依存とうつに『警戒すべきレベル』の強い相関性があると結論づけられた。中国でも、スマホをよく使う大学生は孤独で自身がなく、うつが多いことが確認された。オーストリアでは、うつを患う人はスマホを極端に多く使うケースが多いと判明している」

 もちろんこうした指摘に対して「主従が逆では」という指摘は可能だろう。つまり「スマホがうつを作る」のではなく、「うつの人がスマホに依存する」だけなのでは、ということだ。

 ハンセン氏もその可能性を完全には否定していないが、そのうえでこう述べている。

「私自身はこう考える。過剰なスマホの仕様は、うつの危険因子のひとつだと。睡眠不足、座りっぱなしのライフスタイル、社会的な孤立、そしてアルコールや薬物の乱用も、やはりうつになる危険性を高める。

 スマホが及ぼす最大の影響はむしろ『時間を奪うこと』で、うつから身を守るための運動や人づき合い、睡眠を充分に取る時間がなくなることかもしれない」

 今回訴えを起こした側はメタに対して損害賠償も求めているという。膨大な数のユーザーがいるだけに裁判の結果は世界中に影響を及ぼすことになるかもしれない。

『スマホ脳』から一部を再編集。

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