「1.5次流通」で日本のフードロスを削減させる――関藤竜也(クラダシ代表取締役社長)【佐藤優の頂上対決】

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在庫に注目する

佐藤 会社を辞めてから設立までしばらくありますね。その間は何をされていたのですか。

関藤 コンサルティング会社で、どのように事業を作っていくか知見を深めようとしていました。その時に注目したのが、世の中の在庫の動きです。つまり、余っているものがどうなっているのかを調べた。

佐藤 それは目の付け所がいい。

関藤 在庫はコミュニケーションミスによって生じるものもあれば、さきほどの中国のように指示書通りに作られず積み上がるものもある。在庫という観点から、そうした問題をいかに解決できるか、いろんな事業モデルを考えてみたんですね。

佐藤 そこは商社での経験が生きてきます。

関藤 食品でポイントになったのは、日本独自の「3分の1ルール」です。メーカーから卸売業者、小売業者、消費者へという流れのなかで、製造日から賞味期限までを三つに分け、卸から小売に最初の3分の1、小売店から消費者へ次の3分の1、そして残りは消費者が消費する期間として割り当て、それまでに届かないと、新品でも廃棄するという商慣習です。例えば賞味期限が6カ月なら、4カ月前までに小売に届き、小売は2カ月前には販売しないといけない。

佐藤 この問題は、農水事務次官だった高校時代の同級生・末松広行氏からもよく聞きました。この慣習には、農水省もそうとう手を焼いています。

関藤 農水省は2011年から3分の1を2分の1ルールに緩和させようとしてきましたが、緩和する動きはあるものの、12年間大きくは変わっていない。日本は保管料が高いんです。だから保管料がかかるなら、廃棄した方がいいということになる。

佐藤 戦前の帝国陸軍、海軍で弱かったのはロジスティクスです。在庫管理や用船が不得手だった。それは陸軍士官学校や海軍兵学校で、線形代数学に力を入れていなかったからなんですね。さらにロジスティクスを担当するのは輜重(しちょう)兵ですが、彼らは「輜重輸卒が兵隊ならば、蝶やとんぼも鳥のうち」と揶揄されていた。

関藤 へぇ、それは興味深いお話ですね。日本はやたらと流通が分業化されていて、バトンを渡すポイントが多いんです。その度に、少し包装が破れているとか、箱がへこんでいる、ラベルに傷があるといった理由で商品が流通から落ちていく。

佐藤 日本人は賞味期限に敏感ですし、包装などについても過剰に気にしますからね。

関藤 日本は物流の精度が高い分だけ、寛容度が低いんじゃないかと思います。だからバイパスが必要になる。

佐藤 事業を始めた時、食品メーカーは協力的でしたか。

関藤 いや、100戦100敗です(笑)。まずは100社、3カ月で集めようとして、加工メーカーを片っ端から回っていったのですが、次々に断られました。ただ、その断られ方に可能性を感じたんですね。どこでも個人としては賛同してくれるんです。でも会社としては、ブランドもあるし市場価格も大切だし、と断られる。それなら風向きが変わればクリアできる、と思いました。

佐藤 100社はどのくらいで達成できたのですか。

関藤 半年くらいですかね。2014年7月7日に会社を設立して、翌年2月27日にローンチ(サービス開始)していますから、それまでに商品を集めて、倉庫を準備し、EC(電子商取引)のシステムを構築しました。

佐藤 会社の入口に商品がありましたが、主だった食品メーカーはほとんど参加しています。

関藤 当初は、出品を内緒にしてほしいという会社もあったんです。それが2016年に恵方巻きの大量廃棄が問題になって、クラダシときちんと取引していることが会社のPRになるような状況が生まれた。

佐藤 クリスマスケーキなどもそうですが、季節商品はどうしても廃棄がでる。

関藤 日本は季節行事が多く、季節限定商品が次々と発売され、次々に廃棄されていきます。

佐藤 それも持ち込まれる。

関藤 はい。もう一つのターニングポイントは2018年です。実態が伴っていないのに、あたかも環境に配慮した取り組みをしているかのように見せることを「グリーンウォッシュ」と言いますが、それを新聞が取り上げていたんですね。こうしたアンチフレーズがでてくるのは、SDGsがすっかり浸透した証拠です。この時、取引企業に、クラダシが上場したら取引をどうするかを尋ねたんですね。上場すれば、どこと取引して、どれだけの出来高があるかも公表することになる。でも、もうそれを懸念する必要はなかった。それで約4年前の2019年から上場を準備し始めて、今年6月に東証グロース市場に上場しました。

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