わずか“300人”で全国の薬物犯罪を捜査する「マトリ」…“元部長”が明かす「どんな人がマトリになるのか?」

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「薬剤師」が6割以上を占める理由

 では、麻薬取締官にはどのような人がなるのか。

 具体的には、(1)薬剤師又は薬剤師国家試験合格見込み者(薬剤師免許の取得が採用条件)、そして、(2)国家公務員一般職試験合格者のうちから面接採用している。

 薬剤師を採用するのは、麻薬取締官の業務を進めるうえで、薬物の作用機序(生体に及ぼす仕組み)、体内代謝、または薬物の化学分析に関する専門知識が必要となるからだ。現在、不正な薬物は2000物質を超えており、しかも年々増加する一方である。新薬物の調査、分析のために一定数の薬剤師を配置する必要がある。無論、薬剤師でも厳しい捜査現場に出ることは間違いなく、昇進などにおいて特別扱いされることは一切ない。

 薬剤師と一般職との割合は、現状では薬剤師が約65%、一般職が約35%。司法業務に携わるため、一般職採用では法律専攻者が多い。語学・経済学・電子工学等の専攻者も存在しており、それぞれが専門知識を存分に発揮している。近年では女性取締官も増加していて、全体の約2割を占めている。女性特有のしなやかさが組織の捜査能力を向上させているのも事実だ。尾行や張り込みのプロとして最前線の捜査現場で活躍するのはもちろん、すでに有能な捜査幹部まで誕生しており、期待は高まるばかりだ。

 また、捜査を遂行する上で危険が伴うこともある。「逮捕術訓練」や「拳銃訓練」はもちろん、昔ながらのOJT(On The Job Training)も継続しており、適性に応じた伝承教育を実施しプロの捜査官、いわゆる「本物」を育成している。私の経験からしても「麻薬取締官スピリッツ」をすり込むにはOJTが最も適当と言える。

 麻薬取締部は「小さな組織」であり、その総員は概ね300名。他の捜査機関とはとは比べ物にならないほど小規模である。それどころか、「300名」は小さな警察署の署員数と大差ない。おそらく世界で最も小さな捜査機関であろう。それでも、麻薬取締官は日夜、全国津々浦々に鋭い観察眼を光らせている。

デイリー新潮編集部

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