大学生の“大麻逮捕”頻発で「合法化しない日本は時代遅れ」は本当か マトリ元部長は「どの国も<大麻の安全性が確認された>から合法化に踏み切ったわけではない」

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なぜ、あえて日本で大麻を合法化すべきなのか

 他方、犯罪組織が生産・密輸・密売に関与している場合は全く対応が異なります。米麻薬取締局(DEA)が、アメリカ国内で押収した不正流通する大麻の重量は、18年に約441トンで、19年は309トン(同年の日本国内での乾燥大麻押収量は430.1キロ)となっています。合法化された州であっても、現実には許可を得て栽培された正規の大麻以外に、違法栽培されたり、密輸された大麻が安価で出回っているのです。

 私たちが海外の取り締まり機関やメディアの情報をもとに調査したところ、合法化された地域であっても、住民の大多数が大麻を使用している、または、使用を推奨しているわけではありません。むしろ、住民たちは「使用者が膨大過ぎて、もはや行政による取り締まりは限界」というカナダ政府と同じような“諦念”を抱いていることが分かりました。大麻合法化について積極的に賛成していない人も数多くおり、猛反対している人も少なくありませんでした。いずれにせよ、海外の薬物事情は歴史的にも社会的にも、日本とは背景が大きく違っています。

 厚生労働省の研究班などの調査結果によれば、日本の大麻生涯経験率(対象年齢15~64歳、19年)は1.8%です。対するアメリカ(対象年齢12歳以上、18年)は45.3%、カナダ(対象年齢15歳以上、17年)は46.6%。その他の先進各国でも20~40%台にのぼります。

 大麻以外の薬物、たとえばコカインと覚醒剤については、日本が0.3%と0.4%に留まるのに対し、アメリカは14.7%と5.4%、カナダは10.4%と3.7%。他の欧米各国も、日本の5~20倍になっています。海外を見渡した時、薬物汚染という面で、日本が極めて清浄な国であることを理解してもらえるのではないでしょうか。そんな日本で、なぜ、あえて大麻を合法化すべきなのか。その点については議論が必要だと考えます。

※瀬戸晴海著『スマホで薬物を買う子どもたち』(新潮新書)から一部を引用、再構成。

瀬戸晴海(せとはるうみ)
1956(昭和31)年、福岡県生まれ。明治薬科大学薬学部卒業後、厚生省麻薬取締官事務所(通称:マトリ)に採用され、薬物犯罪捜査の一線で活躍。九州部長、関東信越厚生局麻薬取締部部長などを歴任、人事院総裁賞を2度受賞。2018年に退官。著書に『マトリ』など。

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