人違いで“ターゲットの父親”を刺殺…宮城「闇バイト」殺人事件の世にも奇妙な人間模様

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「助けてけろ!」

 2020年9月、宮城県柴田町の民家で高齢男性が刺され死亡した。死因は脇付近を刃物で刺されたことによる失血死で、左の肋骨が刃物によって折られていた。

 翌年1月に逮捕された襲撃犯は、宮城から遠く離れた愛知県在住の男。被害男性と面識はなく、ネット上の「闇バイト」を通じ、報酬目当てで殺人の案件を引き受けていた。問題はここからだ――。闇バイトで殺害をもちかけた“依頼者”の真のターゲットは、被害男性の“息子”だった。つまり、逮捕された男は、殺害する相手を間違えていたのだ。【高橋ユキ/ノンフィクションライター】

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 報酬目当てにSNSを介して違法な“案件”を請け負う闇バイト。特殊詐欺だけでなく、時折、殺人の“案件”もある。依頼者は、仲介者のSNSアカウントに連絡し、その後、仲介者が実行役を探す。依頼者、仲介者、実行役の具体的なやり取りはテレグラムやシグナルなど、秘匿性の高いアプリで交わされる。カネのために全く面識のない人間を殺害する者が実在するからこそ、こうした事件が起きる。

 柴田町に住む男性、毛利哲雄さん(当時74)が自宅で襲われたのは2020年9月11日の夜8時過ぎごろ。家にいた妻によれば、玄関のチャイムが鳴り、夫が応対に出たところ、何者かに刺されたという。

「助けてけろ!」「おらの親父が!」

 妻の叫び声を耳にした近隣住民が、何事かと毛利さん宅に駆け付けると、玄関先はすでに血の海と化していた。凶器とみられる刃物は現場から見つからず、犯人らしき男は車で逃走。近隣の小中学校では集団下校や部活動の中止といった対応を余儀なくされた。事件が動いたのはそれから約4ヵ月後。逮捕された実行犯は、毛利さんと全く面識のない男だった。

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