「アリア全カット」の驚くべきオペラ タイパ公演を実現させたメゾ・ソプラノ歌手がその狙いを語る

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時間短縮でも作品の良さはそのまま

 オペラの醍醐味といえば、アリアである。〈もう飛ぶまいぞこの蝶々〉〈恋とはどんなものかしら〉……ソロで朗々とうたわれる名旋律を楽しみに、観客は劇場に向かう。ところが、そんなアリアをすべて「カット」して“短縮上演”してしまう、驚くべきオペラ公演が人気を呼んでいる。

 あるオペラ・ファン(50歳代、男性)が語る。

「〈室内楽ホールdeオペラ〉と題して、モーツァルトの名作《コジ・ファン・トゥッテ》(女はみんなこうしたもの)を、小ぶりな第一生命ホールで上演するというので、興味を持ちました。当然、“名曲抜粋コンサート”のはず……と思いきや、宣伝文をよく見たら、“アリア全カット、重唱のみで上演”と書いてある。最初、目を疑いました。聴かせどころのアリアをやらずにオペラを楽しむことができるのか。最近、映画を早送りで観るのが流行っているそうですが、もしや、その類ではないのか。半ば騙されたつもりで行ってみました」

 ところが、結果は……。

「驚くべき面白さでした。《コジ》は全2幕で、休憩を入れると、本来3時間半かかる。それを、アリアをすべてカットし、二重唱や三重唱などの部分をつなげて、なんと休憩を含めて2時間でやってしまったのです。第2弾の《ドン・ジョヴァンニ》も行ってみました。こちらも3時間半を要するオペラですが、やはり2時間になっていました」

 アリアを抜いたのだから、当然、上演時間は短くなる。だが、それでは、作品の面白さが伝わらないのではないだろうか。

「まったくそんなことはありません。いわゆる映画の早送り鑑賞や、抜粋ダイジェスト上演とはまったくちがいました。しかも2時間に短縮されているのに、十分、1本のオペラをまるごと観たのとおなじ満足感です。作品の面白さやテーマ、本質的な部分もちゃんと伝わってきました。私も長年、モーツァルトのオペラに親しんできましたが、こんな上演方法があるとは、予想もしませんでした」

 こんなことを考え出して実行したのは、いったい、どこの誰なのか?

「それは、このアタクシです!」

 元気いっぱい、明るい笑顔で取材に応じてくれたのは、メゾ・ソプラノ歌手、林美智子さんである。この異例の公演は、彼女のアイデアからはじまった。出演はもちろん、構成、台詞台本、演出までを、すべて彼女一人でこなしている。いったい、どこからこんな発想が生まれたのだろうか。

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