無意識で人の悪意を引き寄せる怖さと、それに気付かない鈍感さ… 「シガテラ」が描く人間の“毒”

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 学校でいじめに遭っている男子高校生の鬱屈をちょっとポップに描くのかと思いきや、超美人の彼女ができて、うれし恥ずかし初体験青春物語へ。どういうテンションで観たらいいのかなと戸惑っていたら、いじめの復讐代行による事件にちょい巻き込まれるわ、嫉妬がもたらす蛮行の被害に遭うわで、のんきに観ていられなくなる。無意識で無自覚だが人の悪意を寄せ付けてしまう怖さ、その悪意に気付かない鈍さを描いている「シガテラ」の話だ。

 シガテラとは、食物連鎖によって体内に蓄積されていく毒。食物連鎖の頂点に立つ強者にダメージを与える=いじめっ子に制裁を、という暗喩であり、毒=気付かないうちに蓄積されていく人間の悪意とわかる。

 主人公・荻野(醍醐虎汰朗)は目立つでもなく特別に秀でたものもなく、暗くはないがやや内向的な男子高校生。同級生の谷脇(とっぽいいじめっ子が適役の長谷川慎)に目をつけられて、日々いじめに遭っている。親友の高井(丈太郎)の家が裕福だと谷脇に告げたために、高井も巻き込まれて、いじめとカツアゲの対象に。

 いじめられてはいるものの、荻野の脳内はお花畑状態。なぜならバイクの教習所で知り合った南雲(関水渚)と相思相愛で付き合うことになったからだ。一方、高井は谷脇への憎悪を募らせていた。ネットで知り合った謎の男(吉岡睦雄)に冗談で谷脇の殺害を依頼したところ、男は本当に谷脇を拉致&リンチをしてしまう。

 昨今の無差別殺人事件の犯人(たいてい男)が自分の不満や不平を社会や他人のせいにして、蛮行に及んでいるのとほぼ同じ風景。もうね、吉岡がやや甲高い声で熱演したわけよ、この手の身勝手で他罰的な男を。

 鳥肌モノのサスペンス&バイオレンスなのだが、一方で荻野と南雲はのほほんとイチャついて乳繰り合ってるわけよ。その差が激しすぎてゾワゾワ。憎悪と暴力の世界と、快楽や多幸感の世界が同時進行している皮肉。たった一言や不用意な発言が毒となり、他人の人生の歯車が狂うことは世の常だと改めて思い知る。

 また、荻野に嫉妬した同級生の斉藤(井上想良)も、とんでもない罪を犯す。密かに南雲を昏睡させて襲う計画を立てたが、未遂に終わる。ただ、その悪意に荻野も南雲も気付いていない。ぞっとするような毒は他にもまだあるようで、不穏だ。

 荻野と南雲の交際は順調で愛を深めてはいるが、お互いに秘密もある。荻野は谷脇の彼女・アキコ(吉原怜那)と貫通。南雲はバイト先のクズ男(酒井健太)にだまされて貫通。貫通という物理的な表現にしてみたが、要するに情にほだされてセックスしたという話。貫通はしたが、浮気ではなく、もらい事故のようなもの。どんなに親しい仲でも言わんでええこともある。道理だ。

 平凡な高校生の日常といえど、人生における不可抗力と、ある種のバタフライ効果に震える作品でもある。逆に、人の道を踏み外した谷脇、罪悪感を抱えた高井、密かにゆがんだ斉藤など、男子高校生の行く末が心配にもなる。危ういんだよ、皆。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2023年6月29日号掲載

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