官民あげて中国に関係改善を求める米国、習近平がそれに水を差す“大号令”とは

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「中国との建設的な協力を望んでいる」

「中国は意図せぬ出来事が起きた場合に誤解を防ぐための米国との最も基本的な協議の機会を拒否した」。米国家安全保障会議(NSC)のインド太平洋調整官を務めるカート・キャンベル氏は6月6日、米戦略国際問題研究所(CSIS)のイベントでこのように述べた(6月8日付日本経済新聞)。

 6月上旬にシンガポールで開催されたアジア安全保障会議(シャングリラ会合)の場で、中国側の拒否により米中の国防相会談が成立しなかったことを受けた発言だ。

 キャンベル氏はまた、台湾海峡で中国艦船が米海軍のミサイル駆逐艦に異常接近した事態についても「危険な海洋活動」と批判したが、「中国との建設的な協力を望んでいる」とも述べ、中国との対話拡大に意欲を示した。

 米国務省は5日、国務次官補(東アジア・太平洋担当)のダニエル・クリテンブリンク氏が中国・北京で同国の外務次官、馬朝旭(ば・ちょうきょく)氏と会談したことを発表した。「オープンなコミュニケーションラインを維持し、両国間のハイレベル外交を発展させる継続的な取り組みの一環として、率直で生産的な議論を行った」としている。

 ブルームバーグ(6月6日付)は「ブリンケン国務長官が数週間以内に中国を訪問し、習近平国家主席らと会談する予定だ」と報じた。

 ブリンケン氏は今年2月に訪中する予定だったが、米本土に飛来した中国の気球を米軍が撃墜した事案が災いして延期を余儀なくされていた。実現すれば、2018年10月にトランプ前政権のマイク・ポンペオ氏以来の現職の国務長官の訪中となる。

ウォール街トップの「中国詣で」は続いているが

 米中対話の模索は経済分野がリードする形で進んでいた。

 米商務長官のジーナ・レモンド氏や米通商代表部(USTR)のキャサリン・タイ代表は5月下旬、米国を訪れた中国の王文濤商務部長(商務相)と会談 していた。

 米産業界も政府の取り組みをサポートしている。

 米銀JPモルガン・チェースのCEO、ジェイミー・ダイモン氏は6月6日、バイデン政権の中国政策について「正しい戦略を追求している」と高く評価した。

 ダイモン氏は5月31日、同行が4年ぶりに中国で開催した経済イベントで、2500人以上の中国の有力企業幹部らを前に「JPモルガンは良いときも悪いときも中国にいる」「デカップリング(分断)ではなくデリスキング(リスク低減)が望ましい」と述べた。ダイモン氏の主張に呼応するかのように、バイデン政権も「デリスキング」という用語を使用するようになっている。

 ダイモン氏は2021年11月、「当社の方が中国共産党より長く存続するほうに賭けたい」と発言し、物議を醸したことがあるが、最近になって中国に対して秋波を送り始めたのには理由がある。

 JPモルガンの本業である米国での投資銀行業務が苦境に陥っているからだ。米連邦準備理事会(FRB)の急速な利上げや、米銀破綻という金融市場の動揺が響き、株式や社債の引き受けや買収助言などのビジネスに逆風が吹いている。

 米金融大手シティグループのCEO、ジェーン・フレイザー氏も7日、就任後初めて中国を訪問し、中国事業を拡大し続ける方針を示した。

 ウォール街トップの「中国詣で」が続いているが、現場の反応は冷ややかだ。

 中国が金融分野の対外開放を実施してから3年が経過したが、ウォール街の期待は急速にしぼみつつある。中国での厳しい現実に直面し、このところは人員削減が相次いでいる(5月17日付ブルームバーグ)。

「ウォール街は長年にわたって米中間の摩擦回避に貢献した」と言われているが、その神通力が失われつつある感が否めない。

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